20 今そこにある危機
「うん?なんだこれ?」
お母様からの呼び出しを受け、ハンバーガー作りを中断してまで部屋へ出向けば、渡されたのは封蝋を施された見るからに威厳のある何かの手紙。
「ふぅ…テオドール、それは王城からの招待状ですよ。来月の茶会にあなたの参加をと第一王子殿下が強く望まれておいでです」
「げっ!」
第一王子って…レグルスじゃん!近づくな危険!その筆頭じゃん!
「何で…い、嫌だ行かない。行かないよ僕は!」
「そうですよ義母上。テオに社交は必要ない。このレッドフォードは数年以内に正式に私が継ぐこととなっております。テオはこの先もずっと私の庇護下で好きなように暮らせばいいのです。王家の茶会などに出てうっかり殿下の目にとまったりしたらどうされるのですか!」
お兄様の援護でさえ気怠そうなお母様には届かない。
「あなたねハインリヒ。王城からの招待を本当に無視できると思っているの?今までの招待とはわけが違います。我が家が筆頭侯爵家である以上公爵家を除きすべての貴族家は立場が下となります。いいえ、公爵家ですら我がレッドフォードに面と向かって歯向かいはしない。ですが…王室からの招待である以上我が家に何が言えましょう。テオドールを外に出せないと思う気持ちはわたくしにもあるわ。ですが殿下がそれをお望みなのです」
「くっ!で、では私がエスコートを!」
「貴方は隣国の大臣と会談があったのではなくて?この国を留守にしているはずでしょう?」
な、なな、何!アウェイに単身とか…ムリムリムリ!
「じ、じゃぁ僕…、そうだ!アリエスを連れてく!」
「貴方なにを言っているの!」
「アリエスに王子ぶんなげて隅っこでお菓子つまんでる!」
壁の花宣言に何故かお兄様の強力な援護があり、なんとかお母様を説得することが出来た。
ありがとうって言ったらお兄様から「お礼はここに」とほっぺを突き出されたが、う~んさすが外国ベースのBLゲー。五年たっても慣れないや、この習慣。
お礼のお返しがちょっとうざい。顔中にキスされてもうなにがなんだか。これってこういうもんだっけ?一瞬口にも触ったよね。ファーストキ…いや…これはノーカウントだ!
「テオドールお兄様っ!どうされたのですか?ああっ、あれ以来だったお兄様がここに来て下さるなんて!」
「いやちょっと話が」
「ああ、どうしようっ…ここにっ、ここにお掛けになって!あっ、その前にこの間のお詫びもまだ…」
「い、良いよ別にそのことはもう。それによく考えたらアリエスは何もひどいこと言ってないし」
「お兄様…嬉しいっ!僕を信じて下さるんですねっ!」ガバッ
なんか…えっ?どうしたの?ぐいぐい来るな…。なにっ?隣に座んの?そりゃあソファだけど…前にも椅子あんじゃん。
何がどうしてどうなったのか、今日のアリエスはなんだか少し積極的だ。
少しずつゲームの設定年齢に近づいている訳だけど、ゲームで見てたアリエスとなんか色々と違ってきてる気がする。
身長だってゲームで見たよりちょっぴり高い。
…食事事情が改善されたから?
テオドールなんか、どんなに食べてもちっとも大きくならないのに。
それにしても…生身のアリエスってこんな感じなの?
「ふふ…ちいさな手…可愛いらしい…それで話って?」スリスリ
「……へぁ?いや、その、王城から招待状が来てて…」
「招待状…?」ギュゥゥゥ
「お茶会の。あの、手痛い。でね、アリエスに一緒にいってもらおうと思って」
「あっ、ごめんなさいつい…。それより僕とですか?嬉しい!喜んでご一緒します。お兄様は僕が必ず不埒な輩からお守りしますから!」サスサス
「あ、うん。うん?不埒な輩?あの…それより手…」
「手?」ニギニギ
「…なんでもない…」
何故だか深く突っ込んだら負けな気がしたのであった。
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「本気ですか殿下?本気であのテオドールを、王宮の茶会に招待なさると?」
「ああ、ケフェウスそのつもりだ。まさか自分でも信じられないよ。この私がこんな気持ちになるとは…」
「それほどですか?」
「あれほどに魅力的な人を私は見たことがない。生命力と躍動感に溢れ、私の周りの誰とも違う。建前で取り繕わぬアリエスを好ましいと思ったこともあったが…それ以上だ。ああ楽しみだ。彼は私の前で一体どんな姿を見せてくれるだろう」
「よろしいでしょう。ならば侍従となるこのわたくしもテオドールの人となり、しかと拝見しましょうか」




