16 壊れてなかったフラグ
「ちょっと待て!その薬こちらで確かめさせてもらおうか」
聞いた事あるようなないような…背後からそんな声がかけられる。
「はぁ?何お前…ああっ!タウルスっ!」
「名前で呼ばれるほど親しくないはずだがな。ほら貸せよ」
「ちょ、やめてよ!なんの権限があってそんな」
ゲームで見たままの赤毛、タウルスが乱暴に僕から薬を奪い取ろうとする。
「やめろタウルス、手荒な真似はよせ。すまないシスター、俺たちはそこのテオドール…レッドフォード侯爵家のご子息の行いを確認にきたところだ。だがこのような面白半分に作った薬で問題が起きてはならない。中身を確認するまで貸してはくれないか」
カッチーン!は、はぁ?コイツ何言ってんの?
「アルタイルっ!…お、お前…僕が面白半分で薬を作ってるって言ってんの?言っとくけど僕の調合はその辺の薬師よりも上等だよ!」
「神童…だったか。だが天才が必ずしも人格者なわけではない」
「そうだ!お前がこの孤児たちを使っておかしな薬の人体実験していないと何故言える!」
「二人ともやめて!ひ、ひどい!そんなことを言うためにここへ来たなんて!」
「アリエス!いいからお前はひっこんでいろ!」
「ふ…く…」ブルブル…
身体の震えが止まらない…
なんだこいつら…。ゲームの中で見てた時はかっこいいって思ってたけど…ものすごく嫌な感じ。
そうか…あの時僕はアリエスだったから…。テオドール相手だとこんな感じなんだ…
人体実験って…サイテーだ。僕はそんな風に思われているのか…。僕はやっぱり今でも悪役令息のままなんだ…。僕はこの二人に会ったことさえなかったのに…ジワ…
「かえれっ!バカ貴族かえれ!」
「テオ様をいじめるな!ばかー」
「テオ様のくすりでマギーのびょうきだって治ったんだからっ!」
「赤毛あっちいけ!」
孤児の子供たちが僕の前に出て庇ってくれる。
…嬉しいな…なんかもう泣きそう…
だけど言う事言わなきゃ気が済まない!僕はワガママ令息なんだから!
「アリエス、お前が連れて来たの?こいつらに僕のこと悪く言わせるために…」
「ちがっ、違います!」
「アリエスは関係ない!!俺たちはお前の行為の真偽を確かめようと来たんだ!」
「う、うるさいっ!!!」
アルタイルはアリエスの手を引き背中に隠す。きっと僕から護るつもりなんだろう…。悪役の僕から…
ゴシッ!「何が真偽だ!全部最初っから僕が悪いことしてるって前提じゃないかっ!そんなの確認っていわないよ!自分たちの思った通りの証拠探して「ほらやっぱり」って言いにきただけじゃん!」
言っとくけど僕の中身は十六歳の高校生(仮)だからねっ!中坊なんかに負けないよ!お母さんにも「あんたはいつも屁理屈が多い」って言われてたこの僕が口で言い負けるわけないじゃんかっ!
「い、いや、俺はそんなつもりで来たんじゃない。ただアリエスにしたような悪行をここでもしてはいないかと…」
「悪行って、僕がアリエスに何したっていうの!見たの?アルタイルはそれ見たの?」
「いや、だg」
「それともアリエスがなんか言ったの?僕お前に何かした?して無いよね?」
何かを言おうとしたアルタイルを制し僕の口は止まらない!
「お兄様信じてください!僕は何も言ってません!」
「じゃぁなんの証拠があってアルタイルは僕が悪いことするって断言してんの?」
「しゃ、社交界ではもっぱらの噂だ…お前は悪い子供だと…」
社交界!な、なんで⁉ こうならないように、って僕は家から一歩も出なかったのに…
「ふ…ぼ、僕が…悪い子供…そっ…か」
「それは…」
「お兄様っ!そんなの嘘です!聞かないで!」
「ぼ、僕の悪行は信じてるのに…う、噂の真偽は…確認しないんだ…」
「…うっ!」
「そっか…みんなが僕の事…悪い子供って思ってるから……」
さすがにちょっとショックでかすぎて傷ついたのに、空気を読まないタウルスがそれでも僕に嚙みついてきた。ムカつくな!
「黙れ!アリエスに無理やり同意をもとめるのはやめろ!お前の悪行なら出入りの業者からもメイドたちからも聞いている!知りもしないだと?ただの噂であるものか!お前の屋敷に居た者からの実際の証言だぞ!」
もー怒った!
「はぁぁぁ?何が実際の証言だ、そっちの勝手な話ばっかり聞いて!裁判だって両方の話聞いてから審議するのにタウルスは僕の証言なんて聞きに来てないじゃないか!」
「何っ?」
「タウルス…タウルス…そうだよ!確か騎士団長を目指してたんだっけ?こんな色眼鏡のお前なんかが騎士団長になったら下町の人やスラムの住人が可哀そうだ!いますぐどっか行け!」
「何だと!」
僕は言った。悪意を隠した身なりの良い貴族と、身なりも顔も荒んだ平凡なスラムの住人、目の前でお金が盗られたって騒いでたらどっちを先に疑うか、って。
「言ってみなよ!絶対見た目で判断しないって胸張って言えるんだろうね!」
「お、俺はちゃんと…双方の話を、き、聞いて判断をす…」
「僕の話は聞きもしないで疑ったくせに!今だって信じるつもりもないくせに!」
何が双方の話だ!ウソばっかり!
「家から追い出されたメイドや業者がどれほど善良だって思ってるワケ?ずいぶん頭おめでたいよね。本当に悪い事してる奴が分かりやすく悪い顔してる訳ないじゃん。馬鹿なの?ほんと馬鹿なの?その頭は飾り物なの?」
「…なっ!俺は馬鹿ではないっ!」
今にもとびかからんとするタウルスをアルタイルが羽交い絞めにして押さえている。
上等じゃん!こちとら序列第一位レッドフォードのご子息様だからな!やってみろ!
「いいから出てけ!三人とも!早くここから出ていけ!ここは僕の大切な場所なんだから邪魔すんな!とっととここから出ていけっ!うわあぁぁぁん!!!」
もう、感情が言葉に追い付かなくて地団太を踏みながら泣き叫ぶしか出来ない。ああもう!子供の時みたいだ!
孤児院の皆が総出で三人を追い払ってくれたけど悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。
するとその時、誰かが呼びに行ったのかジローが息を切らして駆け付けてくれた。
「ひでぇな…話は聞いたぜ。だから学院行かなかったのか、お前…」
「うっ、ひぐっ、お前っで言うな!じろーのばかっ!もっと早く帰っでこい!うう…うぇぇぇん」
「よしよしごめんな…こっち来いよ…」
ジローも孤児たちも僕に抱きついて慰めようとしてくれる。
「じ、じろー…僕は悪い子じゃな」
「バカ、わかってるって」ギュゥゥ
あああったかい…
いいよ、大丈夫。これくらい平気。だってこれでますますフラグからは遠ざかったからね。あんな奴ら僕だって大嫌い。
僕は家を出て冒険者になるんだから。
…だから気になんて…ふぐぇ…




