15 ゲームにない場所 二か所目
ジローに頼まれて孤児院に通いだしてからもう二か月になる。
発端は孤児院の子供たちに謎の湿疹が流行った事。ちょっとしたアロエの塗り薬を処方してあげたらすごく喜んでくれたのだ。
それ以来定期的に来ては自作のハーブ薬をこうして補充している。
薬は買うと高いから…
お金があれば高いポーションを買うのがこの世の普通。回復や治癒力がレベチだからね。
だけど魔力を使わない一般薬でも孤児院の運営費で買って備えるのはかなりハードルが高い。孤児院運営はいつだってカツカツなのだ。
前世での僕はアレルギー持ちだった。
下手な薬を飲むと薬疹が出るので、お母さんやおばあちゃんからはハーブティーや漢方なんかを飲まされていた。
おじいちゃんはいつも、「風邪なんか水飲んどきゃ治るし怪我は流水で洗うのが一番だ」って言ってて、とにかく僕はあまり病院の薬は飲まなかった。
そうしてるうちに、庭のハーブと漢方の相関図に気が付いて…面白くって夏休みの自由課題で調べてるうちにすごく薬草に詳しくなったのだ。
そう！僕のハーブ知識は前世仕込みだ！
だからこそ、冒険者になって初めにやろうと思ったのが薬草採取だったんだけどね。
「テオ様～、クッキーは？今日はクッキー持ってきてないの？」
「あるよもちろん。ほらいっぱい焼いて来た！みんな舌が肥えてて嬉しいよ！」
「あー、これこれ、癖になる硬さだよねー」ばりっ、がりっ
「甘い～！美味しー！」ぼりっ
「焦げてるところが香ばしくって美味しいんだって」ばきっ
音だけ聞いてたら何を食べてるかわからない。けどみんなが美味しいって完食するのに気を良くしてつい毎回焼いて持ってきてしまう。
おやつが済んだらその後は、時間が来るまでみんなで遊ぶ。
手書きで作ったカルタやトランプ。理解して遊ぶために、まず最初にしたのが文字や数字を教えることだ。
「ねぇ、みんなこっちきて。今日も神経衰弱しようよ」
「え～、ババヌキがいい～」
「テオ様、今日もシンケイスイジャクやんの？俺もう大分覚えたぜ数字。今度は絶対負けねぇよ」
「そういうセリフは僕に勝ってから言うもんだよ。そうしたらこの特製ドーナツを君にあげようじゃないか」
丸いドーナツにしたかったのだが、どうも犬のフ〇みたいになってしまったのはご愛敬だ。
ちゃんと砂糖もまぶしてきた。きっと子供は好きな味だろう。
僕のちょっとだけ個性的なお菓子はここではなんでも好評だ。暇がありすぎてすっかり趣味が料理になってしまった僕には最高の味見役ってね。
長年の引きこもり生活にようやく終止符を打ち、初めてできた他人とのコミニケーションに舞い上がった僕はここで思う存分遊んで帰る。
今ここに居るのは下はゼロ歳、上はジローの十五歳まで。十六歳になると仕事にありつけた子から順に出ていく。そうでないと部屋もベッドも食事だって足りなくなっちゃうからね。
十六歳は冒険者にだってなれる年。出ていった子は稼いだ時には必ず院にお金を入れてくれるんだって。
すごいなぁ…みんな自立してる…
早くジロー帰って来ないかな？
今日は煙突掃除のお手伝いに行ってるって言ってた。
平民は魔法が使えないからね。なんだって手作業なんだよ。僕のごくささやかな生活魔法でさえ、ここでは貴重な魔法なのだ。
だけど暗くなる前に帰らないとお兄様が大騒ぎをするので余り長居は出来ない。
お兄様の過保護は年々ひどくなっていて、今では寝室さえ一緒にしたいと言い出す有様だ。
お兄様は僕をいつまでお子ちゃまだと思っているのだろう。一人で寝れるって言ってるのに、時々起きると隣にいるのはどうにかならないだろうか。
寝室を一緒にするのはこれからも全力で断る所存だ。
そしてそろそろシスターに今日の分の薬類を渡して帰ろうとしたところで、…その最悪な出来事は起きたんだ。
