145 学院生活ラスト1年 9月
「ふわぁぁ…あー、良く寝た。ん?おに…いさま?」
「おはようテオ。良く眠っていたようだね」
いつから見てたんだろう。お兄様ときたらベッドの横に腰掛けて僕の起きるのを待っていたのだ。
よだれとか出てないかな…。目ヤニは…。もうっ、恥ずかしいな!
「今日から三年次だろう。新しい制服を持ってきたから着せてやろうと思ってね」
「新しい制服…、今までので良かったのに」
「そう言う訳にはいかないよ。心機一転、頑張らねばならないからね」
お兄様の昔からの癖、シャツはいつでも背中側から着せてくれてボタンを留めてくれる。
僕には疑問が一つある。…どうして頭身の位置関係が昔から変わらないのだろう?僕の身長は打ち止めなのか。
鏡の中のお兄様が、僕の頭頂部にキスを落とす。
「ほら出来た。そう言えば…、テオドールももう十六歳だ。これからは大人としての勉強も少しずつ始めなければならないね」
「大人の勉強…?」
「朝からする話ではないね。また今度だ。今日から最終学年、頑張ってきなさい」
頭をブラシで梳かれながら言われた言葉を反芻する。大人の勉強。
なんだろう…?お酒とか?いや、この世界では子供のころから飲んでるか。…一人歩き?そうか、一人歩きか。そろそろ護衛をつけずに行動をするべきなのか…?大人なんだし。
その意見は屋敷内全員一致で一瞬のうちに却下された。
今日から会長はアルタイルだ。アリエスもタウルスも生徒会の役員だから、今日は全員壇上に居る。
デルフィがもうここに居ないかと思うと寂しくて仕方ない。…まぁダンジョンでしょっちゅう会うんだけど…
僕はリヒャルト君にしがみついてアルタイルの挨拶を聞いていた。ああ、思えばここでケフィウスさん、レグルス、みんなの挨拶聞いてきたんだなぁ。
あれ?…じゃぁアルタイルが歓迎の魔法を披露するのか。
アルタイルの属性は風。レグルスほど派手な事は出来ないはず。う~ん。
「ーーー。では君たちの三年間が充実したものになるようこれを贈ろう。アリエス」
「はい。我が光よ、集いて来たれ『スターダスト』」
ひゃぁ~、ちっちゃな光の粒がキラキラと…
「吹き抜けたる風よ、空を震わせ旋回せよ『ラウンドウィング』」
うっわぁ…キラキラがくるくる回って…新入生が光に包まれる。
「会長と書記長、ご婚約されているらしいよ。」
「ひゅ~、 夫唱婦随ってやつ?見せつけるぅ」
あー…そりゃ言われちゃうよね。
でもそうか。レグルスはなんでも一人でやってたけどアリエス達は二人でするんだ。互いに補い合いながら。なんか…それって良いよね。
「いかがでしたかお兄様。新入生の顔は喜んでいたように思うのですが。」
「すごく良かった!あれってあれって」
「ええ。威力を乗せると攻撃になります。ふふ。広範囲攻撃ですよ。」
アリエスってば威力を乗せるのも乗せないのも、もう自由自在だ。
それに引き換え結局僕の魔法はここまでたいして上達しなかった。けど、おかげで今年の演習授業は初めから免除になっているのが本当に救いだ。結果オーライってやつ?
それにしても…廊下がやけに騒がしい。何があったんだろう?みんながこっちを見てる。
「何って…テオ君を見に来てるんだよ」
「えっ?」
「ああ、あれか」
「あれ?」
「殿下の悲恋の恋人だからなテオは」
参った…。僕の顔なんか見たって面白くもなんともないだろうに…
でも遠巻きにされるよりはましなのか?い、いや、これはこれで…ちょっと…
「ね、テオ君。今日も下町行く?」
「え、うんまぁ。救護院に顔出そうかと…」
「いっしょに行っていい?」
リヒャルト君の目当ては巡回中のタウルスだ。健気だなぁ。実際タウルスはどう思ってるんだか。
以前好きだったっていう騎士様も、こうして陰から見てたんだろうな。
「聞いてあげようか?タウルスに」
「いいよ別に。それに僕こうしてドキドキしてる時が一番好きだし」
そうか、リヒャルト君は片思いのトキメキ派かぁ…。少し分かるけどね。
なんだって妄想してる時が一番楽しいに決まってる。




