141 クロネコ記念日
試験的に始まった、ブラックキャットの人力車。人と荷物を縦横無尽に、小回りをきかせて運んでいく。
今日はその記念すべき日。
「見て見てルトガー君、あそこっ!鍛冶屋がある!ほらあっちは薪だよっ!」
「テオ君、見たこと無かったの?」
「だって馬車はこんな細い路地入れないもん。」
貴族用の座席には魔石を使って小さな結界魔法がかけてある。身の安全はとっても大事。だからこんな身軽にのれるんだよ。
それでも前にタウルス、後ろに護衛さんはいるんだけどね。
そしてタウルスの横にはリヒャルト君が、ムフフ。今日は猫何匹被って来たんだろう。
「アリエス様達は来なかったの?今日は一人?珍しいね。」
「今みんな忙しそうで…、タイヤの事業とかクロネコの事業とか船の事業とか…、レグルスも重要案件で忙しいし」
「う~ん、それって全部テオ君のせいでしょ」
「え、濡れ衣…」
…でもないか。少なくとも船はね。
もうすぐ新しい季節が始まる。色々なことが変わっていく。
三年次はどうなるかな。皆もがんばってるし僕も薬学をもっと極めて、ハーブソムリエか漢方医になりたいな。
お兄様はなにやら僕の漢方薬や薬草を使って、なんか商会を起したらしいけど…よく分かってないんだよね。
まぁ分かる人に任せておけばいいか。
それで僕は救護院で…、まぁ、それはまだまだ先の話。
「父様はヴェーバーとの交易を大層喜んでいらしたよ。ありがとうテオ君。ナスヴェッターに新しい産業ができて領民も感謝してるんだ」
「新しい産業…?」
「保冷剤だよ」
「ああ」
「リヒャルト君も喜んでたよ。ファイヤーフォックスの素材を交易品に出来るなんてって。僕もこれで今年の冬は外でも暖かく過ごせるよ」
「冬休みかぁ…。また行ってもいい?キンダーフィッシュ釣りリベンジしなきゃ」
「大歓迎だよ」
これで僕たちの友情は一生ものに確定だね。
今日の僕たちは広報隊員。バスティト様の愛し子は、目立つし宣伝になるんだろう。
みんなにクロネコ人力車とクロネコ荷運び便を知ってもらわないとね。そのために座席の中からチラシを…紙に書かれたチラシを撒いているのだ。
裏は白いチラシ。つまり裏をメモ用紙に出来る紙。
きっとみんな拾うはず。だって紙は貴重だもん。
そしてタウルスは乗客目線で危険個所が無いかを確認している。遊びじゃないんだよ。徒歩と座席じゃ見えるものが違うからね。大事な事だ。
それってつまり…リヒャルト君だけがデート気分!それはそれで有りよりの有り!
「到着!ああ楽しかった。マカー、チラシ全部配り終わったよ」
「チラシって…大貴族のご子息がなにやってんだよ…。テオ様相変わらず頭おかしいな」
「むかっ!おかしくないよ。いいの。僕は別に良い子になんかならないって決めてるんだから。僕は僕のしたいことをするの。僕の人生なんだから!」
「そうだな。テオはそうでないとな。さぁ応接室で少し休め。リヒャルトは先に休憩してるぞ」
「タウルス、そう言えば第六の自警団員集まった?」
「ああ。サグデン氏たちが良い人材集めてくれたんでな。助かったよ」
ん?神妙な顔でタウルスが僕を見つめてくる。どうしたんだろう?
「殿下はもうすぐご卒業だ。神獣様の意向と殿下の意向、どちらも叶う案など見つかってはいない。いいのか?陛下は婚約の申し込みを反故とされるおつもりだ」
「いいんだよ。レグルスとはちゃんと話してなんか良い感じに分かり合えたし……多分」
それにレグルスには僕なんかよりも心躍る、ビックサプライズを用意してある。
あのスクリュー船。
今までの手漕ぎと帆船の中間みたいな船なんかじゃない、自力で動いて進路を開くスクリュー船。
機動力が段違いだ。移動距離が長く、そのうえそれにかかる時間も短縮される。
あれがあればイスラーダ共和国だけじゃなくって、海を渡っていろんな遠い国とも繋がって地上よりもぐっと距離感が縮まる。
僕との距離が縮むより…先に世界との距離が縮まるのだ!




