14 アリエスと友人
「あーごめん、ほんとごめん。これ返しといて。ちゃんとキレイにしといたから」
「お兄様、昨日は杖届けていただきありがとうございました。あのっ…すごく嬉しくて…そのっ、ふふっ」
「うっ!僕にそんな可愛い顔したって効かないんだからね!」
「可愛い顔はお兄様の顔ではありませんか。ええ、…ええ本当に愛おしい…」
「アリエス…?」
「そ、それより、あんなに走ったりして大丈夫でしたか?」
実は全身筋肉痛である…
「何とも無いよっ!それよりこれと、あと、お詫び…」
「あ…クッキー…、ふふふ、まだ焼いていらっしゃるんですね」
「はい、こっちはアリエスにも。昔好きだって言ってたでしょ?」
「えっ?嬉しい!覚えててくださったんですか?お兄様の手作り…ふふ、どうしよう、食べられないや…」
「大げさだなぁ…孤児院に持ってく分焼いたからついでだよ。それじゃあもう行くね」
「えっ、孤児院ってお兄様…待って!」
油断をするとすぐにアリエスは絡んで来ようとする。なんなんあいつ?ちょっと主人公だと思って強気かっ!
…なんてね。主人公だもん。良い子なんだよ本当に。ずっとアリエスになってプレイしてたんだから嫌いになんてなれるはずない。
昔と違い、今こうして学院から離れているから少し僕の心にも余裕が出来た。ジローっていう、ゲーム外キャラとも友達になったことだし、シナリオからだいぶん離れてきてると思うんだ。
だからって言う訳じゃないけど、少しくらいなら話してやってもいいよって思ってるのは内緒の話だ。
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「アルタイル様、これ…テオドールお兄様から制服です。それからこれ…お詫びのクッキーですって」
「うん?クッキー?随分不格好だが…侯爵家のシェフがこれを?」
「お兄様の手作りですよ。不格好だなんて、ふふ、少し固いですがお味はおいしいのですよ」
手作り…侯爵家の令息が厨房でクッキーを焼いたのか?まさかな。そんなことある訳がない。冗談のつもりだろうか?
甘いものは好まないのだが…食べ物を捨てるのは忍びないか。
と、その時窓にとまった鳥が視界に入った。
確か食べたはずだ…
鳥たちに細かくしたクッキーをまいてやる。
群がる鳥たち。無駄にはしなかったのだから食べ物としての役割は果たされたことだろう。
だが俺のそんな行動を一部始終黙って見ていたアリエスはワナワナと身体を震わせている。
「ひ、ひどいです…アルタイル様何てことを!これはお兄様が孤児院への奉仕のためにお作りになった大切なクッキーだったのですよ!お捨てになるなら僕に戻してくだされば良かったのに!」
「す、すまない、そんなつもりではなかったのだが俺は甘いものは苦手で…」
「だから鳥に?これは礼儀の問題です!」
「そ、それより孤児院だと…?これをテオドールが孤児院に配るのか⁉」
テオドールの手作り…まさか本当だったのか。
…多少罪悪感を感じもしたがすぐに俺はその気持ちを即座に打ち消した。
テオドールが何を考えているのかわからない。
だがそもそも学院への入学を蹴ってまで庶民に混ざり学校へ行くようなへそ曲がりだ。一般論で考えたところで理解が及ぶとは思えない。
だが横で孤児院の件を聞いていたタウルスが様子を見に行こうと騒ぎだす。その提案にはアリエスも乗り気なようだ。
「放ってはおけないだろう?アリエスは慈悲で目が曇っているし悪戯気分でおかしなものを配られて病気でも流行ったら大事だ。大問題になる前に未然に防ぐのが俺たちの役目だ」
「ひどいですタウルス様!でも…、これを機にアルタイル様とタウルス様にもテオドールお兄様の優しさが伝わると良いのですが」
それはありえないな…
俺とタウルスは顔を見合わせた。




