140 王太子の大志 8月
「レグルス来てたの!]
「やあ、久しぶりだねテオ」
新たなる野望を胸に忙しく動き回っているレグルスはここのところ学院に来ない。
もっとも三年の後半なんてこんなものなんだろう。
「丁度良かった。話があるの。あとでレグルスの部屋行っていい?お弁当持ってきたから一緒に食べよう?」
「どうしたんだいテオドール?君からお誘いとは珍しい。ああいいよ。お昼になったらお弁当を持っておいで。お茶とお菓子はこちらで用意する。楽しみにしているよ。」
完成品にはまだ遠い、僕の頼んだレグルスの船。
魔法ってホントに便利。いろんな物があっという間に出来ていく。
…僕の魔法は未だにコップ10杯分なのに…
けど別に良いのだ。だって僕には魔法よりももっと上等な、お兄様とアリエス、そしてアルタイルが付いている。そうそう、最近ギルド長も増えたっけ。えへへ。
夢を叶える僕のパーティー。
だからね、レグルスの国交計画…どれくらい進んだか確認しなきゃ。
「それでレグルス、海の国はどうなったの?」
「イスラーダ共和国に先行させた使者の話ではなかなか感触は良かったようだ。あちらからの親書が届いたばかりでね。今から話を詰めるところだよ」
「ええ!そうなの?」
「ああ。こちらからの仮の条件はすでに伝えてあるんだ」
レグルスは楽しそうだ。いままで見たことないような生き生きとした顔で笑っている。こんな顔この世界で会ってから初めて、ううん、スチルでだって見たことない。
「今までこれ程心が踊った事はない。まるでテオを初めて見た時のようだよ」
「えぇ…そこと比べちゃう?いきなり残念な感じなんだけど」
目じりを下げて微笑むレグルス。冗談なのか本気なのかイマイチわかりにくい。
「私はね、自国ながら閉鎖的な国の在りかたが好きではないんだ。この国に限った事ではないけどね。他者、他国のやり方であっても良いものは良いと受け入れる度量が無ければ進歩は止まる。それ以上の発展はのぞめない」
「あー…」
途上国ばかりのこの世界は一つ一つ全てが小さなまとまりだ。国なら自国だけ。領なら自領だけ。その中で全てが完結している。
魔法があるからかな?発展してないわりに便利というか困らないから、自分の領域だけで何とかなっちゃうんだよね。
そうして神獣様の加護のもと自国を守る。そう。神獣様はテリトリーにとてもうるさい。この国は神獣様にマーキングされているのだ。
「私はもっと大きな事を為し遂げたいと常々思っていたのだよ。こうして王家に生まれ大きな魔力にも恵まれたことには意味があるはずだ。その力をもっと生かす道はないかと思案していた」
レグルスが今まで話してくれたこと…全部じゃないけどいくつかは覚えてる。辺境の地…未開の地…彼はいつだって、まだ手付かずのことを、手探りのことをはじめようと模索していた。でもけっきょく古い考えの大臣や領主たちが尻込みしたらそれまでだもんね。
「そんな中でのテオドール、君のあの提案だ。既存の慣例にとらわれるなと背中を押してくれたね。先駆者か、良い言葉だ」
「いやぁ…モゴモゴ…」
半端ない罪悪感が…
「私はね、王太子の地位を捨ていつか世界を回りたいと以前から思っていたんだ。広く大きな見識を持ちいろんなことを見聞きし吸収してこの国に帰りたいとね。…実はね、その旅を君と共にしたいと願っていたんだよ」
「えっ⁉」
あっ、危っな~…。どこに連れていこうとしてんの、もうっ!冒険は行きたいけどこれじゃ無いよね…
「だがそんな事をしなくても広い世界と繋がる事はできる。そう、いち旅人では出来る事などたかが知れている。国交を開き貿易をする…、それは相手国に胸襟を開かせるだけの立場でなければ出来はしないことだ」
「せ、世界を知って違う価値観に触れたらレグルスのガチガチの合理主義にも変化がでるかもよ。海沿いの国ってたいてい大らかだから。国交!国交大切だよ!それよりそろそろ食べようよ。お昼の時間無くなっちゃうよ。」
起死回生の一撃は、逆転さよならホームランだったらしい。その事実に胸を撫でおろしながら、僕は持ってきたバスケットの中身をテーブルに広げて見せた。
「これはなんだい?」
「シェフに頼んで作ってもらったタコス。今日のこれは中身お肉だけどほんとはこれシーフード、海の幸が合うんだよ。だからレグルスがんばって海の幸もっと簡単に買えるようにして!僕タコスデ・ペスカド大好きなの。」
「ふふ、わかった。君がそう言うのなら」
今日一の笑顔でレグルスが破顔した。




