138 タウルスの出発点
「テオドール…これはまた、とんでもないものを作り出したね」
「えっ?あれはマカが作ったんだよ。工場の魔法士さんたちと一緒になって」
「だがテオが発注しテオのラバーシップを改良したのだろう。テオの功績は計り知れない」
いやいやいや…お兄様は何を言っているんだろう…。人様の手柄を奪うみたいで気分が落ち着かない。
絶対この案件に僕の名前はいらないからと真剣に話しておいた。…お兄様、笑ってたけどね。
「作るものが大きいですからね。下町の南西にまた工場を構えたんですよ。また大勢に仕事が行き渡って、ジローはますます庶民の英雄です。ギルド長選もほぼ決まりじゃないですかね」
「庶民の英雄…」
「王家も国と民の為に深くお考えでいらっしゃいますけど、庶民にとっては仕事が増え給金が得られると言った事の方が分かり易いですからね。ジローの商会によって生活の糧が得られる。庶民にはそれが大切なのです」
実際はタイヤに次いでジローの商会とお兄様の共同事業になるんだけど、お兄様は余り表に出たがらないのだ。
筆頭侯爵家当主がノリノリで事業の顔になるのは違うんだそうだ。そういうものなのか…
「殿下は最近ほとんど学院にいらしてないんだ。おそらく国交の件でお忙しいんだろう。履修は済んでいる。卒業の式典まではこの調子かもしれないな」
「そうなんだ…。色々あったけど寂しくなっちゃうね…。時々は顔見せて欲しいな…」
「お兄様、絶対それ殿下の前で言ってはいけませんよ。特にその顔で。話がまたややこしくなりますからね」
「あ、うん。分かった…」
顔が怖いよアリエス…
久しぶりにのんびり三人でお茶をしてると、そこにタウルスがやって来た。
珍しいな、タウルスがここに来るなんて。
「どうしたのタウルス。お休みはいつも騎士団の仕事なのに。今日はお休みなの?」
「ああ。次のギルド長選の話でな。その日は俺が警備につく。それを言っておきたくてな」
「へぇ」
「それでだな。テオドールは下町に顔がきくだろ?」
何が言いたいんだろう…?はっきりしないな。デリカシーの無いタウルスにしては珍しい。
「何人か信用出来て腕っぷしに自信がある奴揃えてくれないか。第六はまだまだ人員が少ないんだ。下町の人間で公的な自警団を作りたい。聖騎士団は貴族街の警備が優先だからな。いや、誤解しないでくれ、けっして軽視しているわけじゃないんだ」
「実際に貴族街には要人が多い。これは仕方のないことなんだ。テオ、タウルスも今の騎士団も本当に他意はないんだ」
アルタイルがタウルスの言葉を引き継ぎ補足する。
…自警団。そういえば下町には見回り組があったよね。でもあれは持ち回りで危険な場所を見回るだけの…そしてケンカは仲裁というより参加型だ。すべて腕力にものを言わせる脳筋団体だ。
「上役には騎士団から就くが団員は平民から募りたい。見回り組と違いある程度の権限を持ってもらい、悪人がいれば捕まえて騎士団まで連行してもらう。あとは困った人が駆け込めるよう…、つまり貴族の団員よりも同じ平民の方が駆け込みやすいだろう?それでまぁ…給金などは騎士団員と差をつけないよう…頼み込んでいるところだ」
なるほどね。交番のおまわりさんみたいな感じか。確かに交番に警視庁総監みたいな人が居たら誰も何も言えなくなるよね。交番のおまわりさんは親しみやすさが大切なのだ。
「その予行演習にギルド長選はちょうどいいんだよ」
「わかった。じゃぁじろーに聞いてみるね」
「お兄様、ジローは今忙しいのでは…」
「あっ、じ、じゃぁサグデンさんたちに聞いてみる!おじいちゃんたちずっと下町暮らしだし。詳しいよきっと!」
「頼んだぞ。なるべく早くな」
そうだよ。これ以上ジローの仕事を増やしちゃいけない。ただでさえ船の件まで抱え込んで、既にいっぱいいっぱいなんだから。
あの褐色の肌をもってしても、あのクマは隠れてなかった…。寝れてないのかな…
「あ、ねぇタウルス、もうちょっとだけゆっくりしてける?」
「ああ、大丈夫だがどうした?」
「ふふ、もうすぐリヒャルトとルトガーが来るのですよ」
さっすがアリエス!分かってるね!
そうしてやって来たリヒャルト君が、驚きに眼を剥き真っ赤になって、猫を十匹ぐらい呼び寄せてしおらしくしてるのには笑ってしまった。
いや、今さら遅くない?バレバレだよっ!




