137 大航海時代到来?
今僕は厨房に居る。
工場に持ってくクッキーを大量に焼かなきゃいけないからだ。
昨日、学院の帰り道、何時も通る道の途中でマカは僕を待っていた。
侍従も御者も慣れたものだ。その姿に気が付くと何も言わずに馬車を停めた。
「テオ様、言ってた船の模型が出来た。なぁ、早く見に来いよ」
チラッと横目で確認してもウォルターは首を縦に振らない。…だめか…
「今からはダメ見たい。えっと、明日っ、明日はお休みだからクッキーたくさん焼いて持ってくよ。ソレでも良い?」
「良いけど…クッキーにあの辛いの入れんなよな」
…今年の冬…、保温を兼ねてしょうがの代わりに唐辛子入れたんだけど、根に持ってるな、さては。おかしいなぁ?温まると思ったんだけど。
「大丈夫。夏だからあれは入れないよ。他のにするね。楽しみにしててね。じゃぁ明日ねっ」
「ちょ、待てよ!何にも入れんな!普通のクッキーで良いんだからなー!」
ということで現状なわけだ。
遠慮しいだなぁ、マカは。トッピングくらい大した手間じゃないんだから、気にする必要ないのにね。
そんなわけで大量のクッキーを…そうだ!ハウスからハーブを…何が良いかな…ど、どくだみ…?
「お兄様、木苺のジャムにしましょうか。クッキーとジャムなら相性良いですよ?」
「えー、でもありきたりじゃない?」
「…昔からのレシピにはそれなりの理由があるのですよ。それだけ好まれていると言うことです。ねっ、ジャムにしましょう?ジャムは僕が作りますから。」
「分かった…アリエスがそこまで言うなら…」
解せぬ!
そうしてやって来たのだ。船の模型を確認に。
「ねぇマギー、このクッキー孤児院に持って行ってくれる?それから薬は足りてる?ご飯は?」
「薬は足りてるよ、テオ様。食事も最近は美味しくなったの。テオ様のお家からたくさんの寄付があるもんね」
「良かった。じゃぁこれ、持ってってね」
「テオ様のクッキー、最近は硬くなくなっちゃったね。またあの硬いのも作ってね」
そうなのだ。僕はお料理スキルが上がったために…クッキーが柔らかくなったのだ。
「お兄様のお料理はおかしな挑戦をしなければ美味しいですよ」
おかしな挑戦…聞き捨てならないな。あれはお料理の無限に広がる可能性をさらに広げるための…
「クッキーには…お兄様の心が出るんですよ。いつも」
「何の話?」
「以前は固かった…。でも最近はとても柔らかいですね。それだけじゃありませんよ。楽しいときはすごく甘いし悩みがあると少し苦い、そして悲しいと…少ししょっぱい…」
そ、そうだったのか…知らなかった…。じゃぁ今は?今はどうなんだろう。
今朝ご飯代わりに食べた味見用のクッキー…。ジャムが要らないくらい甘かった…。えへへ。
「テオ様、これこれ。早く見てくれよ」
「はぇ~、これが船…」
僕の作ったラバーシップ。ゴム動力の小型船。ゴム動力って言ったって、魔法で強化してあるけどね。
でもこれは…少し違う。
「あの船の推進力はゴムじゃなくてここのプロペラが肝心なんだ。だからこのプロペラを生かしてこう形を変えて、それを動かすのにここに軸を通してさ…、そしたら魔法士のおっさん達がなんだなんだと寄って来やがって、動力代わりに魔石を使えって言って置いてったんだ」
「すごい…」
「大した代物ですね、これは…」
ちょっとびっくりした。模型とは言えこんなすごい船になるとは。
いくら魔法士さんたちが一緒に考えたとはいえ…。マカ天才じゃん。そういえばネズミ捕りも仕掛け作ってたよね。
…へぇ…こういうの考えるのホントに好きなんだ…
「だろ?みろよこのプロペラ。ここに角度をつけてんだ。この広い羽根と角度で水を後ろにかきだすんだぜ。」
「スクリューっていうんだよ。これ」
「スクルー?そうかスクルーシップか。良いな、その名前。よし。この船の名前はスクルーシップだ!」
「じろー!じろーも見た?すごいよね、これ。」
背後からアルとジロー登場!頭ポンポンって…ちょっと!そういう事ナチュラルにするとか…やめてよっ!もっとして!
「それでテオ、これでどうするんだ?ジローもハインリヒ様も聞いてないらしいじゃないか。」
「あー、ごほん。これは家で使うんじゃないんだよ。ここで売るんでもない。王家に、レグルスにプレゼントしようと思って。」
「殿下にっ…!」
「王太子にっ⁉」
アリエスとアルタイル、そしてジローに話して聞かせた。
この間の領地間交易の件、うっかりお兄様が乗っちゃってレグルスの顔を潰しそうになった事。
それを誤魔化すために…他国との国交を勧めた事まで。
「あのなぁテオ…お前…危ねぇ…。もう少しで王家と全面戦争になるとこだったじゃねぇか」
「え、えへへ…まぁまぁ、なんか結果オーライになってたし」
「国交ですか…、簡単ではありませんよ。どの国だってむしろ…」
「そうだ。むしろ他国へ攻め入って侵略、国土を広げようと考える国ばかりだ」
「で、でもレグルスは乗り気だったよ。それに戦いたくない国だってあるよ。だって戦いは人も町もぼろぼろになっちゃうし…」
「そうですね。この国の周辺がやたら好戦的すぎるのです。そうでない国ももちろんありますとも」
「だからね、お詫びの印にこれをプレゼントしようと思って。レグルスはイスラーダ共和国とって考えてて…海の幸、魅力的だよね。だから船、今までのよりずっと性能が良くて速い船が欲しいなって思って…。えと、僕の貯金で足りるかな?結構あると思うんだけど…」
みんながあきれた顔をする中、アリエスだけが懐かしそうな顔をした。
「思い出しますね…。お兄様からの贈り物、初めての馬車。あの時も貯金をはたいて下さったのでしょう?ふふ、お兄様の贈り物はいつでも大きすぎるのです。その、殿下も仰天なさいますよ。きっと…」




