134 それぞれの自分探し
午前中は薬学の授業。得意な分野に足取りも軽い。
ご機嫌に廊下を闊歩する僕の前方に現れたのはアルタイルとタウルス、一組の親友。
「ようテオドール。今日もジローの店に行くのか?」
「行くよ。アリエス達も。戦略会議があるからね。」
「じゃぁどこかで会えるかもな。実は今日から巡回に出るんだ。騎士団の一員としてな。まぁ卒業までは毎日じゃないが」
「ええっ!タウルスすごいね!」
騎士団長の手伝いと称し、ずっと団に詰めていたタウルス。
その頑張りはきっとみんなもわかってるはず。親の七光りなんて言わせないよ!
「希望通り下町の第六に配属してもらった。これが俺の第一歩だ」
「頑張って!僕も応援する。下町なら知り合いもいっぱいいるし困ったことあったら相談してね」
「知り合いって…、ああ、そうか、そうだな。そうさせてもらう」
そう。高位貴族の子女が下町に知り合いなんて…よっぽどじゃなきゃあり得ない。
…でもよっぽどだったからね、僕は。こうして笑い話になる日が来て本当に良かった。
「テオ、それより殿下が上で待っておいでだ。ハウスの設計図が出来たらしく見て欲しいそうだ。昼食は用意してあるとさ」
「アルは?アルとタウルスは行かないの?」
「残念ながらご招待が無くてね…。ほら行ってこい。二人きりだが殿下はおかしな真似はなさらない」
「知ってる…」
レグルスは良い王子様だ。今も昔も、ゲームの中でも。
ああ…八月まではあと少し…
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「あれ?テオ君どこへ行くの?カフェテリアは反対だよ?」
「あ、リヒャルト君、ルトガー君。僕レグルスと食べるみたいだから今日はカフェテリア行けないの」
「そっか。殿下も気の毒にね、こんな非情な婚約者で…。テオ君、きみ少しは優しくしてあげなよ。婚約してようがしてまいが、相手は一国の王太子だよ?形だけでもさ。ほんと良い度胸だよね」
良い度胸なのはルトガー君の方じゃないかな?
だけどここで言い返したら最後…、コテンパンにされるのは僕の方だ。ルトガー君に口で勝てるはずが無い。
僕とリヒャルト君のヘタレコンビでは…
「と、ところでリヒャルト君、さっきタウルスに会ったんだけど、タウルス今日下町巡回だって」
タウルスの名前聞いただけで目が輝いてる。ひゃぁ~、リヒャルト君、乙女だねぇ。
「え?巡回ってどういう事?」
「騎士団、正式に入団したって。で、第六、下町管轄の隊に配属だって」
「そ、そうなの?あぁ…じゃぁ何かお祝い…お祝いしなきゃ…。ルトガー君、放課後買い物付き合ってよ」
「良いけど…。タウルス様誘って二人で行ったらいいのに」
ビックリ!
ルトガー君がこんな気の利いた事いうなんて。恋愛事には全く関心無いと思ってたよ。
「リヒャルト君のセンスって少しあれだし…、うん、やっぱり一緒に行って好きなもの選んでもらいなよ。そのほうがプレゼントも無駄にならずに…、あれ?リヒャルト君どうしたの?リヒャルト君?」
…リヒャルト君はご臨終です…
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「う~ん。よく出来てると思うけど…。強度が無いと風で飛ばされて終わりだよ?それにこんな重量級どうやって組み立てるの?」
「強度は土魔法の亜種であげてあるよ。組み立ては風魔法の者が持ち上げてくれる。繊細なコントロールが必要だけどね。アルタイルがハインリヒに取られたのは大きな痛手だ」
仕方ないよね。アルタイルは家族になるんだし。僕とお兄様の…せいではない。
不意に切り出される話題。それは今ふたりの間に横たわる繊細な問題についてだ。
「…君に言われてもう一度よく考えてみたんだ。初めて君を見た時…なぜあれほど惹かれたのかを」
レグルスは珍しく笑顔を消して真面目な顔で話し始めた。
「私は王宮で高位貴族の、それはたくさんの女性を見てきた。陛下には側妃が大勢いる。母の手腕も有りよくまとまり陛下を支えている。だがその侍女も含め…とても華美な方ばかりだ」
「へぇ…」
「率直に言おうか今日は。夜会のたびに大勢の子女たちが群がって、そう、ドラブ令嬢ほどでないにしてもあのような子女は大勢いたんだよ。私の周りには」
だいたい想像はつく。ゲームの中でも学園のほとんどがレグルスのファンだったし。
「彼女らの話の内容はいつも決まって流行り物やオペラの話、あとは新しい菓子の話だ。いつも私はその無駄話に疲れていた。もちろん顔には出さないが…後継を考えるためとはいえ…うんざりしていたんだよ」
レグルスは自分の立場にとても真摯だ。だけど本来、ザ・セレブ!みたいなタイプは苦手なんだろうな。それは言われなくても想像がつく。
「華やかな女性に囲まれてきた私にとって…あの日見た君の姿はとても新鮮だった」
「あの日?」
「君が一人、救護院で慈善活動をしていた時だ」
そういえば以前もそんな事言ってたけど…いつ来てたのかな?知らな…、ああ!レグルスは隠匿魔法が使えるんだった!
「社交界の誰にも劣らず艶やかな君が木綿のシャツを腕まくりして…汗と汚水にまみれながら掃除をしていた」
だってあの救護院は臭くって…、換気と掃除しないと居心地が悪かったんだもん。
「君はあの気難しそうな老冒険者たちに囲まれながら楽しそうに話をしてた。彼らの特異な話にも耳を傾け、時に有益な助言をしながら…、そんな君となら私好みの会話も出来そうだと思ったんだ。ほら、ちょうど先ほどみたいな」
だって冒険者になりたかった、ううん、それ以上に僕は前世でファンタジーものが好きだったから、だからどんな話も前のめりで聞いてたんだ。物語を聞いてるみたいで。
「それに君は私に執着しない。こうして呼べば来るけど自分から会いたいとは言わないだろう。私は無駄に時間を取られるのが好きではないんだ」
無駄って…、ああ…ゲームの中のレグルスもそんな感じだ。
ランチや放課後のティータイム、テオドールはいつも誘っては玉砕してた。
ロイヤルスマイルで、だけどきっぱり「ごめんね、私は食事中に打ち合わせをするんだ」そう言って。
そうか…あれは体のいい断り文句じゃなかったのか。
「誤解無いよう言っておくけど、君との時間を無駄だと思ったことは一度もないよ。この間も言ったろう。自分の居場所を自分で作って人生を無駄にしない、それも含め自立している君をとても魅力的だと思っているんだよ、私は」
自立って…誤解っ!それは誤解だから!どこをどう見たらそうなるんだろう。レグルスの目は節穴だろうか?
「夢を壊して悪いけど…僕は全然自立してないよ?出来たら全力で甘やかされたいし、いつも褒められてないと何にもやる気でないし、好きな人とはいつでもイチャイチャしたい。言ったでしょ、デートとかしたいって」
「ふふ」
「おじいちゃんたちの話は…面白い話なら誰の話だって聞くし、汚れそうな時にきれいな恰好なんてしていかない。僕はTPOをわきまえただけ。当たり前の事しかしてないよ?」
人の話は聞きなさい、時と場所を考えなさい、お母さんにいつも言われたからね。
「それを当たり前と言える君だから惹かれたんだ」
どこか遠い目のレグルスは僕に何を見ているんだろう…
「この間も思ったけど…レグルスは王太子をやめたいの?合理的で頭が良くて目標があって忙しくて…レグルスはほんとに良い王子様だし自分でもそうしたいって言ったじゃない?」
「ああ。私は国をより良き未来へと導きたい」
「なのに心のどこかでそれをシンドク思ってるの?」
「…いや、断じてそうでは無い」
「さっきから無駄無駄って言うけど…僕のほとんどは無駄で出来てるよ?」
僕から無駄を除いたら何も無くなってしまうかもしれない。はっ!
ピーン
「…分かった!僕のことを好きだっていうならきっと…それはきっと…レグルスは無駄な事がしたいんだ!」
ハッとした表情で顔を上げるレグルス。そうか…、僕は無駄のシンボルだったのか…
「そう…かもしれないな。私は時折自分で自分が嫌になるんだ。昔からそうだ。常に理性を優先してしまう。そしてそれをどうしても変えられない。なんだって持っているはずなのにね、何かを物足りなく感じるんだ」
ロイヤルスマイルの完璧王子。その奥には無駄への渇望があった!
「ねぇレグルス、なりたかった自分を僕に重ねたって満足なんかできないよ。それは自分に向き合わなきゃ解決しないことだもん。多分…」
大切なことだから言っておかなくちゃ。
これは絶対に言っておかなきゃならない大切な事。




