132 やり直しの6月
そう言えば…と思い出したのは去年の事。
去年の僕かぁ…ちょうど今頃引きこもってたっけ。
デルフィの誕生日パーティーであんなことがあったから。
デルフィからは今年の誕生日パーティーも招待された。だけど行かなかった。なんか縁起が悪い気がして…
その代わりに前日、アリエスと選んだたくさんの贈り物とお手製のケーキを持って公爵邸を訪ねて行った。
ジャジャーン!
僕のお菓子作りはついにケーキへと進化を遂げたのだ。
そしてデルフィの私室に招き入れられ、見てしまったのだ、その部屋を。
猫グッズに囲まれた…実にファンシーなその部屋を…
「デルフィこれって…」
「何か問題が?」
「ううん」
何も言えない…。言えやしないよ。こんなお堅いデルフィの私室が猫にまみれているなんてこと。
今度ネコ型のクッション作って来るねって言ったら、「そうまで言うなら貰うとしよう」って言われたけど…そうまで言ってないよ?
ともかく去年は六月じゅう家に居たのだ。なら今年は満喫しなきゃ!
六月と言えばラベンダーにカモミール。お母さんの大好きだったハーブ達だ。
裏の温室脇にある広大なハーブ園。そこには季節ごとに様々なハーブが咲き乱れる。当然今はラベンダー!
この紫花が揺れる中で、みんなとハンギングづくりをしたい。
今年の僕は一味ちがうのだ。
「リヒャルト君、ルトガー君、今度のお休み家に来ない?ハーブ園で一緒にお花摘みしようよ」
休み明けの教室でお誘いしたのはいつもの二人。そう、僕のし、し、親友だね。
「お花摘み…。ずいぶん可愛らしいことを言うよね。テオ君は似合うだろうけど僕はどうかな?」
「だ、大丈夫だってルトガー君!ラベンダーだから!花花してないから!」
「ラベンダーかぁ…。僕は喜んでお伺いするよ。良い香りだよね。大好きなんだ」
「リヒャルト君、ラベンダーはいろんな効果があるけど、日焼けや虫刺されにもいいんだよ。ヴェーバーにもピッタリ!夏の帰省に持って帰れるよう精油にしたらいいよ」
「それいいね、テオ君教えてくれる?」
「もちろん!」
そこに乱入したのは品の良いソプラノ。
「テオドール様、ラベンダーはわたくしも大好きですのよ。贈ってくださってもよろしくてよ」
「わ、分かったよ。おっきな束にして持ってくるね」
ヒルデガード嬢は率直だ。あんな言い方だけど彼女はいつも裏が無い。分かり易くて楽ちん、だから僕は大好きだ。
そうだ!良いこと思いついた!
「リヒャルト君、良かったらタウルス誘ってあげようか?」
「え、ええー!い、いいよ、そんなの。どうしたらいいか分かんないし」
「呼んだらいいのに。君毎晩うるさいじゃないか、今日は見かけたとか見かけなかったとか」
「ちょっと…言わないでよ…ホントいいからね…」
真っ赤っかでかわいいなぁ。上手く行ったらいいのにな。
この二人だけど家柄的には問題ないのだ。ただ第二夫人とかとか考えなきゃいけないけど…タウルスは嫡男だしね。跡取りがね。
ん?あれ?
レグルスはこの国の王太子だよ?後継者はどうすんの?側妃?側妃前提ですかっ?
やだよそんなの。ええっ?なに考えてるんだろう…
自分の事でいっぱいいっぱい過ぎて今までそんな事すら気づかなかった。ゲームには後継者のことなんて出てこなかったし。
要確認だ。僕は心のノートにそっとメモすることにした。
そして週末。
「満開のラベンダー畑だね」
「辺り一面ムラサキで、とってもキレイでしょ?」
「リヒャルト君、あれ」
「なにルトガー君…あっ!」
ルトガー君に促されリヒャルト君が背後から来たその人影に気付く。
「タウルス様…」
大きな体躯。一目でわかる。タウルスだ。
アリエスがアルタイルとタウルスを連れてやって来たのだ。
僕はラベンダー畑の中央に大きなシートを敷いてお茶やお菓子を準備した。
「好きなお花を選んで好きなだけ摘んできてね。香りの相性も考えてね」
皆が散りじりに花を摘む中、アルタイルだけがそこに残っている。
「タウルス誘ってくれたの?」
「ああ。リヒャルトがどれだけ本気か分からないが思い出くらいは有ってもいいだろ。俺にもそんな思い出はたくさんあるし、その思い出は決して褪せない宝物だ」
つつー
滴る汗。そんな思い出ってどんな思い出だろ…
「…アルタイルはアリエスが好きだよね?」
「当然だ。昔から一緒にいてアリエスの良いところも悪いところも全部知ってる。思いのほか乱暴だったが…そんなところも魅力的だと今は思ってるさ」
「ありがとうアル。僕も好きですよ。お兄様の次にですけどね。」
背後からかけられた声、それはアリエスだった。
そんな日々の中、ジローとお兄様の共同事業は着々と進められていく。
その打ち合わせがあるとかで、ジローの来訪は増える一方。わぁーい!…まぁ、僕はほとんど学校行ってて居ないんだけどね…
だけど今日はお休みだから。
ジローと僕は小さなサロンでお兄様の帰りを待っている。お仕事の進捗を聞きながら。
ジローのお店の程近くには車夫の養成施設も作られて、そこではいろんな教育をするそうだ。言葉使いやらちょっとしたマナー、後は簡単な読み書きを。
そういえば僕の母校でもあるあの学校は、これを機会に立派な教育機関になっていた。
なにしろ僕が通ってた学校だからね。
なんと!
お父様の一声であそこはレッドフォードが運営する庶民向けの専修学校となったのだー!
色んな仕事の基礎を学んで将来が拓けるように…代わりに卒業後は関係施設で勤労奉仕を義務付けられる。あ、ちゃんとお給料は出るんだよ。ブラック勤労はいけないからね。
車夫…車夫か…観光地…う~ん…
「ねぇじろー、せっかくならお探しのお店とか、景色の良い場所とか、案内出来るようにしたらどうかな?外から来た人は助かるよ?」
「案内…いい案だな。先生と相談するか…」
「先生って学校に居た?」
「ああ。新しい学校では校長になったらしいが養成施設の相談役にもなって貰った。何しろハインリヒ様に紹介された相手じゃ俺の気が引けて仕方ないからな」
先生!元気かな、先生。最近はお昼のバスケットもほとんどケータリング状態でお屋敷のシェフが手配してたから会えてないや…
僕の初めての世界。それがあの小さな学校だった。
ジローだってそう。始まりはちっちゃな屋台だった。それから初めてのお店を構えて移転して拡大して…、いつの間にこんな立派に…
「どんどんじろーは凄い人になってくね。僕置いて行かれないようにしなくちゃ」
「馬鹿か、俺はお前に追いつくのに必死なんだ。ずっとお前の隣に居たいからな。始めた会ったあの学校みたいに…」
ポッ「えと…」
「はい、そこまでです。お兄様、あちらの部屋でアルが呼んでますよ。ナスヴェッターの件で聞きたいことがると」
「あ、は、は~い」
イイ雰囲気だったのにな。




