129 お披露目会 5月
散々だった春。日差しはそれでも薬草を元気にする。
僕自慢の温室では、ただ今絶賛観光ツアー中。
偉い貴族の人たちがいっぱいで、僕は小さい身体をさらに小さくしながらアリエスの後ろに避難した。
「お兄様ったら相変わらずですね。ふふ、皆様が説明をお待ちですよ?」
「えぇ…なんだって僕がこんな事…」
ぶつぶつ言いながらもこうしてガイドをしてるのは、このツアーの最後尾にジローの姿があるからだ。
ハインリヒお兄様に呼び出しを受けやって来たジロー、いつの間にか子飼いの商人、そういう形になっていた。
「お兄様はいつもこうやって、僕の望みをかなえてくれるんだよね」
「ハインツ様はそれほど甘い方ではありませんよ。ジローを手元に置くならおくでそれには理由があるのです。あまり隙を見せてはいけませんよ?」
「隙…?」
アリエスの言う事はよく分からない。隙…。僕に隙があったらどうなるって言うんだろうか…?
お兄様は完璧守護者。さすがゲームの時からの味方なだけある。
「今日はね、デルフィも後で来るんだよ。出来上がった〝ちぐら”ダンジョンまで持ってくの」
「へぇ、そうなのか?アリー」
「ええ。バスティト様が早くしろってうるさくて…」
卒業もまだなのにアルタイルはレッドフォード邸に入りびたりだ。新居予定の離れに泊まったりして、すっかり第二の我が家気分だ。
「違うのですよお兄様。ハインリヒ様からの指示が多すぎてここに居る方が便利なのです」
「あー…なんかお兄様がごめんね?」
「いいさ。あの離れは居心地が良い。それにお前の顔も見れるしな」
アリエスに蹴られるアルを見ながら、ほっこり気分で僕は午前中いっぱい頑張ったのだった。
「それで?レグルスはあれからどうしてる?僕も神殿の移設計画が持ち上がったせいで会えてないんだ」
温室見学ツアーを終えデルフィと合流。
「う~ん。意外と良く来るよ?ハウスの事もあるしね。あんな事言ったせいかやたらとデートに誘ってくるけど、結局本人が一番忙しいんだよねぇ」
「そうか。まぁだが貴族議会は抑えられたことだし後はテオの好きにしたら良い」
「えへへ、デルフィありがとう。大好き!」
「ああ、僕もだ」
サラっと言うけど…バスティト様にスリスリされた時のほうが蕩けそうな顔だったよね?負けた気分だ…
「ところで神殿を移設するのか?」
「まだほんの計画だけだ。だがそれほど上手くはいかないだろう。何しろ神獣様は気まぐれ。ふふ、この僕を振り回すくらいにはね。こちらへどうぞと言われて簡単に移ってくれるものか。下手をすればそっぽを向いてこの国から出て行ってしまうだろう。そういうものなのだよ、猫神様は」
「そんなことになったらこの国は守護を失いますよ?他の神獣も居るには居ますが、猫神は国神ですから」
「…無茶なことしないよう、デルフィしっかり見張っててね」
「ああもちろん」
あの癒し空間を失ったら…生きてけないよ!
そんなことより肝心のお披露目。ジローがタイヤを持ってきたのだ。
正確にはタイヤの付いた乗り物、人力車ね。
これは荷物運びにも使う、タイヤの付いたリヤカーの荷台部分をおしゃれな椅子に変えたもの。
僕が京都で乗りたいって言って、「高い」って却下されたあれと同じもの。
タイヤの宣伝代わりにもなるし、これならだれでも仕事に出来る。
スラムの大人や孤児院の子でも、腕力と脚力にさえ自信があれば誰だって引っ張れる。車輪がタイヤになったその乗り物は格段に動きが軽くなったのだ。
「ほぉ、すごいなこれは。誰の発案なんだ?」
「僕が工場でリヤカーの荷台に乗ってたらじろーが閃いたの。それで工場のマカと作ったんだよ。でね、おしゃれな椅子はアリエスからのアドバイスだって」
「キャリーの時もそうだったな」
「ジローの設計はいつも無骨なのですよ。お金を取って人を乗せるならもう少しその辺考えないと。」
ワイワイしてるところにジローを連れたお兄様がやって来る。その後ろにはフェニックスさんがお供の準備を整えている。なんでも僕のバスティト様へ奉納用の専属護衛になったらしい。フェニックスさんたち、それでいいの?
「デルフィヌスいたのか。どうだこの新製品は。ジローの考えたこのタイヤ。随分革新的だと思わないか?」
「ああとても凄い。このタイヤがあれば様々な分野で色々なことが変わりそうだ」
「今からダンジョンへ行くのだろう?今日は試運転だ。私とジローもついて行く。馬車でだがな。人力車には誰が…」
「はいっ!僕っ!僕っ!」
「……アリエス、アルタイルと乗ってみるか?」
「いいのですか?」
「それは楽しみだな」
解せぬ…。ま、別にいいよ。だって…
レッドフォードの大きな馬車に、お兄様とデルフィとジローと僕。
どうしよう!大好きな人しか乗ってないや。待って!ここは天国かな?
あれれ?せっかくのハーレムなのに車内はただの会議室だ。遠足気分には程遠い。
しまった…デルフィは真面目だった…
あの人力車を使って都市部の機動力をあげるだのなんのって…、そんな話し聞いててもつまんないよ!
「ねぇねぇじろー、あのね、今日ね」
「テオ。あとで聞かせてくれ、すぐ終わる。コストがだいたいこれくらいで…」
「ねぇねぇお兄様、一緒にダンジョン行けてすごく嬉しいな」
「私もだよテオドール、お兄様から離れないようにしなさい。それで規模的には…」
「ねぇねぇデルフィ…」
「テオドール、大人しく待っていなさい。今大事な話をしているんだ」
とりつく暇も無し…




