128 繊細な立場
「テオちゃん。まだなにか悩んでるのかしら?お義父様方がお戻りになるまで考えても仕方なくてよ?」
「ううん。そうじゃなくて…」
タイミングよく顔を出したオリヴィアさんに、レグルスと話したことを相談してみる。きっと頭がすっきりする…そんな気がする…
「そう…殿下はテオちゃんと言うよりテオちゃんの自由に惹かれているのじゃないかしら?」
「自由…?なんかそれらしいこと言ってたけど…」
「同じようにしがらみの多い立場のはずなのにテオちゃんときたら怖いもの知らずですもの」
凄く不本意だ。納得しかねる。僕はいつだってシナリオに縛られて誰よりも不自由だったのに。
「殿下の言う事も尤もだわ。国を背負うと言うことはそこに住む人々を背負うと言うことですもの」
「うぅ…」
「でもそうね、テオちゃんの言う事も分かるわ。一人で何でも出来るなんて…、殿下の魔力がいくら強大でもそれは傲慢と言うものよ」
そう。レグルスは他人に意見は聞くけど…結局自分だけで考えて自分だけで結論を出すんだ…
みんなを巻き込んでワイワイ話し合って、そうやって何かを作り上げるジローと違う。
レグルスのそういうとこ…僕はそれが寂しい…
「それからそうね…、ケフィウスの事は…、殿下にとって彼は当たり前に傍に居すぎて意識することがそもそも無かったのじゃないかしら」
「意識しないって何で…?だってあんなに近くに居て、それにケフィウスさんは美形だよ?それでも?」
「ケフィウス、ブラックレイは子爵家ですわ。最初からお相手になど、候補にすら名があがらない相手ですもの」
「あっ…」
「殿下にとって彼はいつでも一番傍に居て一番の理解者でもある大切な存在なのでしょう。だけど従者としての立場を超えて考えることの無い存在だったのだと思うわ。そういうものよ」
「難しいね、王族…ううん、貴族って…」
レグルスにとっても…。ケフィウスさんにとっても…。僕にとっても…
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「それでレッドフォードはご子息殿の扱いをどうするのだ」
「神獣様の思し召しだ。おいそれと王家には上がらせられぬぞ。聞いたであろう。朝夕となく呼び出せるよう待機させよと思し召しなのだからな」
「いやだが、うむ、」
「しかしだな」
あまりにも常軌を逸した展開に誰一人正解が分からないでいる宮廷議会。
「皆、静かにしてくれないか。ともかくハインリヒ、レッドビアード伯爵はいかがお考えなのか聞かせてもらおう」
爵位継承の報告が終わり、陛下は議会用の長いテーブルへと席を移した。
テオドール様との話し合いを終えられた殿下もその卓へ同席される。
ああ、殿下の前であのような醜態をさらすとは…。テオドール様に己の気持ちを暴かれてから、どうにも平静を装う事が難しい。
殿下も言ったではないか。「感情的になると上手くいかない」と。
一日も早く本来の自分を取り戻さねば。これ以上取り返しのつかないことにならないように。
「テオドールは、そうだな、ダンジョンにいつでも駆けつけられるよう我がレッドフォードの王都邸にて今後も新薬の発見開発に尽力してもらうつもりだ。敷地内にはテオドールの集めた膨大な数の薬草の類いが丁寧に育成されているのでね」
「国の役にもたつだろう。思えばあれは七歳の頃であったか、幼い息子が薬草の研究に着手したいと言い出したのは。初めは何を馬鹿なと思ったものだが、今思えばあれも天啓だったのかもしれん。引きこもったのはそれも一因なのかもしれぬな。だが今となってはこのレッドフォードに一大事業よ」
「…さすがは神童テオドール様。流石ですな」
「ですが今はそんな頃より…」
さて、陛下の意向はどうだろうか。
陛下は何をおいても国益を優先される。それは殿下にも受け継がれた高貴な精神である。
ドラブの粛清も済んだ今、新たな火種は望まぬだろう。
「レグルスよ。お前の気持ちはどうなのだ」
ドキリと胸がざわつく。
殿下はテオドール様の最後の台詞を真剣な顔で噛みしめていらしたが、納得には程遠いのものだった。
「父上、私は…テオドールと話したのです。お互い真摯に向き合って」
「ほう」
「そのうえで、やはり私は彼を見ていたい。当たり前を当たり前としない…彼の行動や言動、その全てに触発されるのです。彼を娶るのは国益にも通じる。ですがこれは国の為、それだけではない。ハインリヒ、それだけは言っておく」
威嚇するハインリヒを前侯爵がたしなめる。さすがにあのハインリヒも未だ頭は上がらぬらしい。
「ですがテオドールに言われました。良く考えろと。レッドフォード侯爵、貴方もそう申されたが私はそれほど視野が狭いように見えるのだろうか?これでも私は遠い先まで見据えているつもりだ」
「いいや、焦りすぎだと言っているのだ。何が殿下をそこまで急かせるのか、少し立ち止まることも必要であろう。それはこの私が身をもって知ったことだ」
殿下が焦る理由…それは恐らく第二王子カノプス殿下の…
「ううむ…王子の意向を汲み…尚且つ神獣様の意向に沿える道はないか考えるゆえ、侯爵、しばらくはこのままにしてはもらえぬか。手立てが無ければその時は、レグルスお前が諦めよ。良いな、それまではけして先走ってはならぬ」
静まりかえった部屋に陛下の声だけが響き渡る。
これは殿下にとって本当に最後の機会。
必要なものはいつでも手に入れてきた殿下。その殿下の腕の中にどうしても落ちてこない黄金の実。
「ここに明言する。王太子妃と神獣様の従者、二つの立場が交わらぬ時は、王家からの意思としてこの婚約の申し出は反故とする。これはレッドフォードの事情によるものではない。神獣様の意を汲んだ王家からの反故である。期限は王子の卒業まで。それまではこの件でだれも騒ぎ立ててはならぬ!異論は認めぬ!良いか!」




