127 初めてのちゃんとした会話
今日お兄様たちは王宮へ出向く。陛下に爵位継承のご報告をしに。そのついでにレグルスも含め、昨日のことを話し合うのだって。
僕の居ない場所で偉い人ばかりが集まって…。当事者が居ないのに?
「お兄様お願い!僕も連れて行って。議会に出せとは言わないから。昨日のあんなんじゃなくて、ちゃんとレグルスと話したいの」
「テオドール…」
僕はレグルスの事が嫌いな訳じゃない。むしろ大好き。いっぱいいろいろしてくれて…嬉しいこともたくさんあった。
だけどレグルスは僕の気持ちを分かろうとはしなかったし、僕も面倒なことは後回しにして、レグルスの気持ちは知ろうとしてこなかった。そのことは少し後悔してる…
「…だからちゃんと話しておきたいの…」
「そうであった。互いを想いやる気持ち、だとしてすれ違っては無意味。それは私とヴィクトリアが一番わかっていることであった」
「旦那様…。そう。そうでございますわね」
こうしてお父様は、僕とレグルス、二人っきりで話をする機会を設けてほしいと、王宮に向けて早馬を飛ばしてくれたのだ。
宮廷内の視線が痛い…。
僕の両側にはレッドフォードの現当主と次期当主が居る。
それでも弾き返せないほどぶしつけな冷たい視線。久しぶりだなこの感じ。懐かしいと言っても過言ではない。
「ではテオドール様、こちらへ」
ケフィウスさんに促されて、僕は一人別室へ。
ちゃんと話そう、今まで言いたかったこと全部。いろんなこと言わないでいたせいでこうなったんだから。
レグルスはいつも通りの張り付けた笑顔。あんなことがあったって言うのに怒りもしないで、まるでハンコ絵のように変わらない顔。
「それで?テオはどうしても私との結婚が嫌なのかい?」
「だって!」
「君は昨日からだってばかりだ。悪い子だね」
「いいの。僕は悪い子が一番なんだから。やっとわかった」
「そう。どんなふうに悪い子になるの?」
「僕の方こそ聞きたいけどレグルスはなんで僕と結婚したいの?ただのお役立ちアイテムなら部下でもいいじゃん。お兄様もそう言った!」
「役立ちアイテムなどと思った事は無いよ」
「レグルスの気持ちがよくわからない」
「いいかい。私はテオのその自由なところが好きなんだ。何にも縛られず何にも捕らわれず、自分の居場所を自分で作り、自分が何者か、自分自身で決めて生きているところが本当に好きなんだ」
「え…」
意外な返事。そんな風に思ってたのか…あれ?でも…
「君を見ていると勇気がわくよ。そんな君を間近で見ていたい。さぞかし胸がすく事だろう」
「それってなんか…レグルスがまるで縛られてて捕らわれてるみたいに聞こえる。なんで?王太子でいるのが嫌なの?」
「まさかそんなこと。私はいつでも自分のすべき事は自分で選んできたつもりだよ。この魔力も立場も全てはそのために備わったものだ」
ああこの感じ。義務だ責務だってうるさかった昔のデルフィにそっくりだ。
今なら僕もそれがどれほど立派で必要な事か分かってる。それでも自分の事をここまで省みないのは、やっぱそれも違うと思うんだよね。
「…デルフィに初めて会ったとき聞いたんだよ。決められた人生、疑問に思わないのかって。この世界にはたくさんの分岐があって、その数のぶんだけ選択肢があるんだよって。そしたらデルフィは好きでそうしてるって言った。レグルスは違うの?」
「好きとか嫌いとか…そう言うものじゃないんだよ。テオドール、自由な君には分からないだろうが、私には責任がある。王族としての責任だ。大きな力を持って生まれた者の責任。この国がより良い未来に進むかどうか…それは私の肩にかかってる」
それはすごく立派な宣言なんだろう。だけど僕にはそれが独りよがりに聞こえた。
だって前世のお父さんはいつも言ってた。家族はチームだって。レグルスの言ってることは、監督さえ良ければ試合には勝てるって、そういうことだ。でもそうじゃない。
「テオ、私は国の行く末を背負ってるんだよ。それが王家の、強者の役割だからね。だが君が傍に居てくれれば心強い。私が間違えそうなとき君はハッキリ言うだろうからね。ほら、今こうしているように」
なるほど。
「なら期待にお応えして言わしてもらうけど、レグルスは間違ってる!自分が全部背負ってるとか思うなんて…大間違い!人が背負えるものなんてせいぜいリュック一杯分だよ」
あ、これは同居のおじいちゃんの受け売りね。
「私の魔力は歴代の誰より強く大きい。比類なき力。国を護り導く力だ。だから誰もが私に期待を寄せる」
ムカッ!僕に魔力がちょっとしか無いと思って…、マウント?ねぇそれマウントなの?
ドン!
「魔力が大きいと責任も大きいっていうなら僕なんか超無責任でも良いってこと?違うよね?」
「テオドール…」
「なんでレグルスは全部自分でやろうと思うの?強い人にしか国は守れないの?そんなはずない!そんなはずないよっ!」
「君が言わんとしていることは分かる。だがそういう事ではないのだよ。事実私にしか護れないものがある」
「何て石頭なの!怒れるな!」
「私が悪いのです!テオドール様、私が殿下に理想を語って聞かせたからっ!」
人払いをしたはすのその部屋に飛び込んできたのはケフィウスさんだ。
ブラックバーンは諜報家系、当たり前か…
「誰も殿下と同じ場所には立てないと…、唯一にして至高だと…、いつもそう言い続けたから…私が…」
はらはらと涙を流すケフィウスさん。
「何人たりとも殿下の隣に並んではいけないと、私が言ったのです。殿下の苦しみなど考えもせず…」
「お前に言われたからそうした、などという腑抜けだとでも思うのかい。言ったはずだ。お前の望みは私の望み。私は自らこの生き方を選んだのだ」
変わらないレグルス。
僕はと言えば好きなようにまくしたてたクセに、収集つかないその状況に…逃亡を図ったのだ…
「と、とにかくっ!レグルスは一度よく考えたらいいよ!僕が何で怒ってるのか。どうして僕がレグルスには恋愛する気が無いって感じてるのか…、大事な事だから!ちゃんと考えて!」




