126 誰よりも偉い人
カッ!!!
誰一人目を空けていられないような眩い光の中。
気がつくとそこには漆黒の毛並みが艶々と輝く、高貴なる光の神獣、バスティト様が居た。
えっ!ええー!なんでぇー⁉
気が付いたらいつの間にか僕の隣にはデルフィが居た。
その眼を細くすがめ、とても甘く柔らかく微笑んでバスティト様を見つめているデルフィはまるで別人のようだ。
「大丈夫だと言っただろう?バスティト様に頼んでおいたと。彼女は私の献身に免じテオを助けて下さると仰ったのだ」
「こ、言葉分かるの?デルフィ…」
「いや、だが目を見れば分かる」
「ええ…一か八かじゃん」
「私たちは通じ合ってるのだよ」
「お、おう…」
いきなりあらわれた黒い猫神、光の神獣バスティト様に、高位貴族の面々と言えど慌てふためきどよめくばかり。
「バスティト神…何と神々しい…」
「おお…まさか神獣様をこの目で見られる日がこようとは…」
「何ということだ。幸甚の至りであるぞ…」
「あ…皆様お待ちを。バスティト様より神託がございます。その…まずは姿勢を正せと…」
光の神子、アリエスの言葉でいっせいに跪く貴族たち。同じようにしゃがもうと思ったらアリエスはだまって首を振る。
どうやら僕とアリエス、そしてデルフィはバスティト様による光の結界へと招かれたようだ。
「バスティト神…なんという美しい毛艶…まるで黒曜のようだ…」
通りすがりに聞こえたうっとりした宰相の声、グリーンベル公爵、デルフィヌスの父親。そうか、あれは血筋か。
「よろしいですか皆さま。では心してお聞きください。…ええ、…ええ、…はい…」
神託を授かるアリエスはゲームで見た聖なるアリエスそのものだ。
「アリエス…バスティト神は何とおっしゃったのだ」
「良いですか。バスティト様はおっしゃいました。『テオドールは我のげ、愛し子、我より離してはならぬ』、と」
「え、今下僕って」
「『我の呼び出しに応じ、朝夕となくいつでも世話が出来るよう待機させよ』と」
「今下僕…」
「なんとそのような!」
「やはり愛し子の名は伊達ではない!」
「猫神様の思し召しであるぞ!」
「テオドール、なんと素晴らしいことだ。いくら話を聞いたところで実際に目にするまでは実感などわかなかったが…バスティト神…これほどの威厳であるとは…」
「あ、や、下僕…」
「国の祀る神獣バスティトの命ではしかたないね。この件は一旦持ち帰ろうか。レッドフォード侯、ではまた明日」
「下僕…」
「聞いたか皆の者。テオドールの去就は明日、陛下への陳情を持って再度検討することとなる。これは神獣様のご意向である。けして騒がぬよう心せよ!もう一度言う!これは神獣様のご意向である。良いな!」
グリーンベル公の大きな声がこだましてその場の騒ぎは収束を見せた。
納得のいかない僕を一人残して…
散々だった祝宴も終わり、お屋敷の一番大きなサロンの中では家族会議の真っ最中だ。
身の置き所の無い僕は、アリエスの服の裾を掴んで離れられないでいる。
「お兄様、オリヴィアさん、ごめんなさい…」
「まぁテオちゃん、いいのよ気にしないで」
「いいえテオドール。あなた少しは気になさい。お兄様のお式を台無しにして、しょうの無い子ね」
「う…だって…」
「義母上、あまり叱らないでやって下さい。あれは私が悪いのです。あの場で騒ぎを起こすつもりは無かったのですが、殿下が既成事実を作ろうと姑息な真似をするのでつい」
「ハインリヒ、おまえもまだまだ青臭い。もうすこし精進せぬか」
「はっ、父上。申し訳ありません」
「ごめんなさい…」
それにしてもデルフィってば…、バスティト様にあんなこと頼んでいてくれてたなんて。
王家と筆頭侯爵家、派閥が割れたら大変だ。
高位貴族をまるまる黙らせるならその誰よりも格上が来ればいい。
だからって誰も神様が来るとは思わないでしょうが。
「いつかこうなると思っていた」あの後そう言って帰って行ったデルフィ。頼もしさが半端じゃない。
「神獣様の意を汲んだと言えば候補を外れるのも容易いであろう。これで議会を二分することもない。グリーンベルの嫡男デルフィヌスは良くやってくれた」
お父様のその言葉に反応したのはアリエスだ。
「ですが殿下はそう易々と、「それでは仕方ない」とはおっしゃいませんよ。それはハインリヒ様もご存じでしょう?」
「だがアリー、貴族議会が騒ぎ立てないのはこれ以上ない大成果だ。テオドールがまた悪評にまみれるなど…俺はごめんだからな」
アルタイルのゲンコツがこつんと頭に当てられた。
それにしてもバスティト様め。
下僕だ下僕だとは思ってたけど、正式に宣言されるとは…くそぅ…
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「殿下…、だからおよしなさいと言ったのです。ハインリヒ相手に真正面からけしかけるなど」
「さすがに自分の結婚式で伴侶を放ってテオの元へやって来るとは思わなかったのだよ。恐れ入った。あれだけの貴族家が一堂に会し、尚且つ彼が身動きのとれない式の間は絶好の機会だと思ったのだけどね。日程を重ねて来た彼への意趣返しにもなるかと思ったのだが、…やはり感情的に動くと上手くいかない」
「そうですね。次代の王たるあなたが感情に振り回されてはなりません。もう諦めてはいかがです?お聞きになりましたね、あの神託を。テオドール様は諸国漫遊の旅には出かけることは出来ませんよ。そうではないですか?」
「…そうだね。だがそれはまだ先の事だ。どうするか…。考えなければならないね。ああ、今夜は眠れないな…」




