124 結婚式と…
花咲き誇り柔らかな日差しが降り注ぐ、天の祝福すら感じる春の始め。
お兄様とオリヴィアさんの結婚式は行われた。
いつもなら少しきつめの印象を与えるお兄様が、今日はなんだかパリコレのモデルみたい。
お母様に言われて仕立てたという予算ぶち抜きのオリヴィアさんのドレスも、目がチカチカするほど眩しすぎる豪華さだ。
「アリエス見て!すごくきれい…」
「ハインリヒ様のお式はひと際豪華なのですよ。何しろこれは実質継承式でもあるのですから」
結婚式であり継承式。お兄様はお父様から一つ爵位を頂いて、今日からレッドビアード伯爵となるのだ。
「やぁ、テオドール。ヴェーバーの資料をありがとう」
「あ、レグルス」
「あれは色々と有意義な資料だね。大いに役立たせてもらうとしよう」
「そう?良かった。徹夜してまとめた甲斐があったよ」
「徹夜…いつのことでしょうお兄様。毎夜健やかにお休みだと思ったのですが」
「何で知ってんの…」
「ふふ、お兄様の事なら何でも知ってるんですよ」
アリエスの耳はどこまでも長く、アリエスの目は千里を見通す。
むむ…、さりげなく腰にまわされたレグルスの腕。無下に振り払うことも出来ず、僕はそっとケフィウスさんの様子を伺う。
…全然いつもと変わんない…
僕だったら好きな人に誰かがくっついてたら嫌な気分になっちゃうのにな。きっとすごく変な顔しちゃいそう…
立派な貴族は、王族は、こうして常にお面を被らないといけないのだ。余計な諍いを産まないように、付け入るスキを見せないように。レグルスが前に言ってたように。
ゲームのレグルス、感情の読めないあのキャラ特性が僕は苦手だったのだけど…あれは必然だったのだ。
「やぁレグルス、テオドール。今日はさすがに主役の座は奪われてしまったな。良い天気で実に良かった。ここ侯爵家のガーデンはこの時期本当に見事だからね」
待ってましたデルフィ!
「ねぇねぇ聞いたよ。エジプシアンダンジョンばかり行ってるって」
「ああ、まぁ…その、バスティト様が日を開けるとお怒りになるのでね。それに先日は水の精霊ウンディーヌ様の気配をつけて行ったらすごい勢いで怒られたのだ。まったく僕のバスティト様はヤキモチ焼きで困ったよ」
「え、えぇ…」
デルフィ、そんな満面の笑顔で言われても、それ全然困ってないやつ…
「やぁデルフィヌス。バスティト神に夢中だというのは本当だったんだね。最近留守がちでどうしたのかと思っていたよ」
「すまないレグルス。卒業後は公務に支障が無いよう考えるよ」
そして彼は僕の横を通り過ぎる時、小さな声でささやいたのだ。
「テオドール、心配はいらない。バスティト様に頼んでおいたから…」
頼んでおいた…一体何をだろう?
敷地内の礼拝堂に司祭様がやってくる。
領地なら当然だけど、王都邸で敷地内にこの規模で礼拝堂を持っているのは、レッドフォードと公爵家の二つだけだっていう話だ。
用意された席、主賓の横には当然お父様が座るとして…その並びにはレグルスや公爵家の席もある。
…公爵家がお祝いに来るとかどんなん…
レッドフォードの権力に身震いがする。
王様が来ない事にホッとしたのもつかの間、レグルスが面倒なことを言いだした。
「テオドールの席は私の隣にしてもらおうか。今日この良き日には名家の者が揃っている。私の意図を示すのにも良い機会と言えるだろう?」
「殿下…、テオドール様は依然まだ候補の文字が取れてはおりません。お隣は…いかがなものかと」
「ケフィウス、君は最近どうかしている。君は私の補佐ではなかったかい?」
「…出過ぎたことを申しました。」
なにか…不穏な気配を感じる。
なんだかんだの折衷案で、僕の左側にはお母様、僕の右側にはレグルスと言う、実に気の抜けない真ん中に僕の席は移動された。これなんて拷問。全然楽しくない。
「やあダイナス侯、君もずいぶんやきもきしただろうが、ようやくハインリヒも年貢を納めた、安心しただろう?可愛い部下だ。」
「可愛いいなどとは…ははは、ハインリヒが嫌がりましょうぞ」
レグルスにはいろんな高位貴族のえらい人が次から次へと挨拶にやって来る。
お兄様は明日お父様と、二人揃って陛下の元に挨拶に行くと言うことだ。レッドビアード伯爵家当主として。
とは言ってもお兄様はこのままレッドフォードの王都邸を本拠地にするらしい。お兄様は都会派エリートなのだ。
そんなわけで今日の招待客はそれはそれはもう早々たるメンバーで、さっきから僕のお友達は…誰一人ここへ近寄って来れないでいる…うぅ…
そんなお偉い貴族家の当主がこの状況をスルーするわけがなく、そのたびに僕をチラチラと…
「ほうほう、これは。次は殿下の番ですかな?」
「そう願いたいものだ。ああそう言えば、先の貧民街への食料支援、あの対策の骨子を提案したのはこのテオドールなのだよ」
「へっ?」
……聞いてませんけど?
「あのどこででもどんな環境でも収穫出来る奴隷芋、いや、ジャガー芋を安全に食用に出来るよう教えてくれたのはテオドールじゃないか。収穫期を増やすことも助言してくれただろう?」
「したけど…」
「そしてナスヴェッターからの報告書。私は農耕地を増やすことばかりを考えていたが、生態系か…、そのような視野は持ち合わせていなかったよ。代わりにポイントコーンを増やせと書いてあったね。あれもどこででも育つからと。流石だテオドール。君の才知はどれ程の助けになるか」
「あう、や、その」
「ヴェーバーからの報告書にも飼料用コーンのことが書いてあったね。粉にするのかい?そうすれば人の食用に出来るのか。とても有用な意見だった」
「その」
「モーリッツ卿、今度テオドールの助言により、〝ハウス栽培”とやらに着手するのだ。ぜひ貴公も忌憚のない意見を聞かせてはくれないか?」
「それはそれは。大した才でございますな。流石はバスティト神の愛し子テオドール様。殿下の慧眼には敵いませぬ」
「はは、貴族議会では随分と叩かれたものだけれどね」
はぅあっ!なんかおかしな空気感が…
お母様に視線をやっても軽くスルーされるばかり。
しまった、お母様は潜在的にあっちよりだった。み、味方が居ない…。そうだ、敵の敵は…味方…
チラリ…
「ゴホン、殿下、テオドール様がお困りですよ。そうも皆様に顕示されては」
「ああすまない、つい浮かれてしまって」
「お若いですなぁ。ハハハ」
笑い事じゃない!さっきから背中を嫌な汗が流れる。誰か助けて!
「殿下、今日は私などの一貴族の為にわざわざご足労頂き、まったく、その臣下への細やかな気遣い見習わなければなりませんね」
期待に応えてお兄様登場!




