123 誕生日の日の秘密の話 4月
人生で一番大変な誕生日。それが成人を迎える誕生日だ。
正確にはあと三日あるけど、四月四日はお兄様の結婚の祝宴。前倒しでお祝いをしてもらうのだ。
「お母様…と、お、お父様。お帰りなさい。お祝いに来てくれてありがとう」
「テオドール、まぁ綺麗に着飾って」
「アリエスとお兄様が着せてくれたの」
「テオドールよ、此度は成人おめでとう。お前が健康にこの歳を迎えたこととても嬉しく思う」
「あ、ありがとう。あの、すごく元気だから、なんなら屋敷で一番元気だから」
久しぶりのお父様は表情がとても柔らかくなった。
人の印象って、ここまで変わるもんなんだなってびっくりしたけど、こっちのほうがずっといい。
健康が気になるってことは、この頃すでに弱かったんだろう、デイヴィッドさんは…。
試験のたびに熱を出して寝込んでたゲームのテオドール。…もしかしてあれは仮病じゃなく本当のお熱だったのかも知れない。テオドールも身体が弱かったんだろうか…?
「ふぅ…、貴方は今では誰よりも気ままですものね。それは元気でしょうよ」
「そう言ってやるのではない、ヴィクトリアよ。今までの反動が出ているのであろう。元気で何よりではないか。生まれてくるこの子もそうであってほしいものだ」
「まぁ、旦那様…」
僕を出汁にしてイチャイチャするのはやめて欲しい。
「お義父様、お義母様、今宵はお招きありがとうございます。父も本日伺いたいと申しておりましたが遠慮してもらいましたの。テオドール様が気疲れされますものね」
「うむ、計らいに感謝する。あれはお前も知っての通り社交の場とは縁遠かった。多少ましになったとはいえ一足飛びには行かぬであろう」
「ふふ、お可愛らしい義弟ですわ」
久しぶりのオリヴィアさんに今日の僕はくっつき虫みたい。だってオリヴィアさんはお式前の準備でとても忙しかったのだ。
話したいことが山ほどある。それに相談乗ってほしいな~…なんて。僕は一人で悩むのに限界を迎えていた。
お父様とお兄様はお父様の書斎でお酒を楽しんでいる。
お母様は一足先に寝室へ向かってしまった。
やっとオリヴィアさんと二人きりになれた。
僕は機関銃のようにしゃべり倒した。
「そんなわけでケフィウスさんの想いに気づいちゃったと言うか…」
「まぁ…、テオちゃん、それ皆の前で言っては駄目よ。あらぬ誤解を与えてしまうわ。それにしても…、…テオちゃんはどうしたいの?まさか婚約解消したいのかしら?」
オリヴィアさんは最近二人きりだと『ちゃん呼び』をしてくれる。前世のお姉ちゃん味が増して、僕はそれがとても嬉しい。
「だって僕は…ちゃんと一緒に考えて一緒に何か出来る、そういう恋人同士になりたいの。ケフィウスさんはそういうの出しゃばりだって思うみたいだけど…、大変なことも困った事も…僕は一緒が良い」
「対等で居たい…。そういう事なのね。だけどお相手は殿下ですもの。お立場的にも無理があってよ。それ以上に殿下の性格的にも、対等は…少し難しいのではないかしら?」
「うぅ…」
「あの商会の彼の事はどう思ってるの?」
「へっ?じ、じろーの事?…じろーは一番最初の友達で…、一番最初のパーティー仲間で、一番最初のお仕事の相棒で…それで一番最初の……」
「もしかして初恋のお相手だったりするのかしら?だけど現実的に考えて彼は無理よ。分かるでしょう」
いくら僕でも気付いてる。さすがにもう十六歳、成人だし。いつだってギュゥって…ジローの気持ち。
だけどジローは平民だもの…。僕がここから飛び出さない限り、お付き合いなんて…そんなの無理に決まってる。
だけど僕とジローの冒険者計画は中途半端にとん挫した。ジローが商会主になったから。
万が一僕が無茶したら、レグルスもお兄様も、絶対ジローを許さない。
せっかくここまで大きくした商会。ダメになんかさせられない。僕のせいでジローの夢を壊すなんて事出来やしない。
「…どうしたらいい?いつでも僕が後回しにしてたから…どうにもならなくなっちゃった…」
「テオちゃん…。安心なさい。きっとハインリヒ様が考えて下さるわ。ハインリヒ様はテオちゃんが大好きですもの」
「お兄様が…?お兄様はいつも僕の味方で…。だけど王家に逆らったらお兄様にだって迷惑がかかって…」
「テオちゃんが悪い子って言われてた時でもハインリヒ様はものともされなかったでしょう?大丈夫よ。テオちゃんは悪い子のままで居てもいいの。そんな気を回すのはおよしなさいな。それにバスティト様の愛し子に面と向かって異を唱えるものなど誰も居ないわ」
悪い子…それは僕に付きまとう永遠のテーマ。
そうか…僕は悪い子のままで居て良かったんだ。
オリヴィアさんに話してよかった。少し気が楽になった。
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「ハインリヒ様、テオドール様には言われた通りお話しておきましたわ。テオドール様が婚約を受け入れそうになったらさりげなく阻止してハインリヒ様にまかせておくよう念を押して言い聞かせる。これでよろしくて?」
「ああオリヴィア、よくやってくれた。テオはきっと最後には君を頼ると思ったのだ。何の含みもなく信頼でき、尚且つ相談するに相応しい思慮を持つ相手。テオドールの信頼を得ているのはもう一人デルフィヌスがいるが、あれは少々頭が固い。それになんだかんだ言ったところであれは王家よりの人間だ。この件を相談するなら君だと思っていた」
「それはそうでございましょう?殿下とデルフィヌス様は従兄弟ですのよ」
「君はなかなか気が回る。まったくテオは知ってか知らずか…良い相手に引き会わせてくれたものだ。」




