122 ジローの大発明
「お兄様~ただいま!いっぱい遊んで楽しかっ、ゴホン、いっぱいお仕事して大変だった~、甘やかしてっ!」
「ふふ、テオが楽しかったのならなによりだ。おいでテオ、お兄様は寂しかったよ」
ハグから始まる僕の帰宅。来週にはお兄様の結婚祝いだ。そしてその日は…僕の誕生日でもある。
「ハインリヒ様、お兄様の誕生祝は打ち合わせ通り四月の初日で良いのですね?」
「ああ、一足先に行う家族だけのささやかな宴だ。変更はない。テオドール、お前の成人の誕生日だというのにひっそりと行う事を許してくれるかい?私の祝宴があるばかりにすまないね。」
「全然気にしない!家族だけ?アルタイルは呼ぶ?」
「ああ」
「オリヴィアさんは?」
「呼ぶとも」
「…デルフィお兄ちゃん…」
「あれは家族ではないし、そんな予定もない」
「だよね…」
どさくさに紛れなかったか…
部屋へと戻る廊下の途中、アリエスから聞かされたのはマル秘情報。
「そういえばデルフィヌス様は足しげくバスティト様のところに通っているそうですよ」
「え…」
「骨抜きだそうです」
「あ…」
「あそこに別荘を建てたいと、ハインツ様に打診があったそうですよ」
どうしてこんなことに。無理もないけど。
さて、明日はお土産を持ってジローのお店に行く予定である。馬車旅で疲れたし今夜は早く寝なければ。
ジローに会うのは久しぶりだ。
何かを作るのに忙しいみたいで春休み前はそんなに会えなかった。
だけど明日はお土産もあるし、…お兄様からのお達しもある。
ジローから試作品を受け取ってくるようにって言ってたけど…
試作品って何作ってたんだろう?僕はなんにも渡してないんだけど?
それも含めて楽しみでしかたない。
ジローのお店が大きくなるのが、まるで自分の手柄のように嬉しくって嬉しくって。
翌朝、店を訪れると何故か扉の前には待ちかまえるジローの姿が。
「テオ、ヴェーバー領は楽しかったか?」
「とっても楽しかった!ねぇ、どうしてお出迎え?」
「渡すものがあるんだ」
「えっ、プレゼン…ト、じゃないね。なにそれ?タイヤ?」
「たいや…。そうか、テオはこいつを知っていたのか」
「知ってるよ。作ったことは無いけど…。え~すごい!これじろーが考えたの?」
「ああ、俺が考えた。マカにも協力してもらってな。これをハインリヒ様に渡してくれるか」
「ジロー、これはどういうものだ」
「形状的に…車輪でしょうか…?」
僕とジローのやり取りを見て、その黒くてまあるい物体をしげしげと眺めていたアルとアリエスが不思議そうにそう問いかける。
「ああ。今までの木製の車輪やその車輪にゴムを巻いただけじゃない。これはゴム事態を筒状にして空気を入れてあるんだ。耐久性を高めるのは大変だったが…、ついに完成した!これを車輪にすればその乗り心地は飛躍的に良くなる。これは売れる!自信作だ!」
自分でタイヤを思いつくなんて…
すごいすごい!ジローはすごい!すごっ…あっ!あの…
ギュゥゥゥ…
いきなりのハグ!
「テオ!全部お前のおかげだ!」
「じ、じろー…ちょっと…」
ここ大通り…
ドゲシッ!
「このお馬鹿!公衆の面前で何を!誰かに見られたらどうするのです!」
アリエスのすごいキックが炸裂した。怖…。アルタイルも隣でビビってるじゃないか。
これ以上アリエスを怒らせてはマズい、みんな心を一つにして速攻店内に姿を隠した。
「あ、えと、じろー。これお土産。トキーラっていうすっごい強いお酒。でも飲み過ぎないでね」
「ああ、ありがとう。じゃあ俺からも」
「えっ?」
「まだ侯爵邸には行けないからな。お前の誕生祝い、少し早いけど良いよな?」
ジローが後ろ手に隠してたそれ。
「薬研だ…」
「いつまでもすり鉢じゃ大変だろ?こんなの欲しいって言ってたじゃないか。」
「…覚えてたの?」
「自作だからな。少し歪んでんのは勘弁してくれ」
「忙しいのに…、時間なかったでしょ?」
「お前の為だ」
ジィィィ…ン…
ジローの手彫りのケヤキの薬研。これを掘るのは大変だっただろうに。
胸がいっぱい。…最高の誕生日プレゼントだ…




