121 ヴェーバー領! ③
屋敷に戻り、念のためってもう一回治癒をかけていたアリエス。
その後は看病を伯爵邸の使用人に任せ、アルタイルが残る討伐現場へと急いで戻って行った。
そして陽が暮れる頃戻った二人と兵士の皆さん。なんとかレグルスに頼まれた数は揃えられたようだ。
そして翌朝。
「タウルス様大丈夫かな…」
「大丈夫だって。だってアリエスの治癒だよ。光の神子の治癒なんだから心配いらないよ。ねぇアリエス」
「ええ、その通りです。そんな顔なさらないでリヒャルト様」
「でも起きてこないですよ…」
リヒャルト君は自分を庇ったタウルスの具合が気になって仕方がないようだった。
「…あれは寝不足を解消しているだけです。「もう治った」とか言って夕べ遅くまでブリッジをして遊んでいたのですよ。彼とアルタイルと伯爵は。いい加減にしろと何度も何度も言ったのに…あげくこれです。まったく寝汚い」
え!真夜中にそんなことが…
「あのすみません、父もカードには目がなくて…」
「いえ、アルもハインリヒ様が居なくて少し浮かれていますし」
アルタイルの心の闇に触れた気がする…
そうして僕とリヒャルト君は今夜の歓迎会のため、現在せっせと準備のお手伝い中。
「テオ君、明日からはお楽しみの観光だよ?タウルス様の頑張りで思ったより早く数が揃ったし、良かったね、任務達成出来て」
「…タウルスたちの頑張りね…」
「えっ!も、もちろんそう。いやだなぁ。皆の頑張りに決まってるじゃない。ア、アルタイル様も素晴らしいご活躍でしたね?アルエス様」
「う~ん、ふふ、タウルスですか。ふふ」
「いやっ、あのっ、違いますから、そういうんじゃないですから!」
「わかってますよ冗談です。ふふ。そうですか…ふふふ」
タウルスかぁ!
もともと騎士好きのリヒャルト君。彼は昨日「助けてもらったんだから看病するのは自分の責任だ」って言ってタウルスのそばを離れなかった。
リヒャルト君には吊り橋効果が発動してる。その吊り橋は明石海峡よりも長いかも知れない…
その夜の歓迎会は大勢の近隣貴族が招待された盛大なものだ。
何故なら僕は筆頭侯爵家の次男であり、第一王子の筆頭婚約者候補であり、…そして神獣の愛し子だからだ。
右側にはアリエス、左側にはアルタイル、そして背後にはタウルスを配置して、僕のフォロー態勢は万全だ。
ヴェーバー伯爵は真面目な貴族。し、親友…のお父様に恥をかかせるわけにはいかないのだ。
「ひぃ…ふぅ…終わった…」
「挨拶終わった?テオ君やれば出来るじゃない?すごくしっかり挨拶してたよ。見直しちゃった」
「見直す…?」
出来ない子と思われてたのか…
「じゃぁそろそろファーストダンスを踊ろうよ。それにしても嬉しいな、ルトガー君に聞いてからずっと羨ましかったんだ。今日ほど領主の息子で良かったと思ったことは無いよ」
「そこまで?まぁ光栄だけど」
ところがなんと!リヒャルト君とのダンスは、今まで踊った誰よりも踊り易くてびっくりした。
これは…ああ!ポン!踊りのレベル差があまりないからか!
ヴェーバー伯は眉間をもんで険しい顔をしてたけど、僕にとってはラッキーだった。
「思いのほか楽しかった!リヒャルト君、学院の舞踏会でも一緒に踊ろうよ」
「えぇっ!そのお誘いはすごく嬉しいけど…君、殿下が居るじゃないか」
バレたか…
「テオ、俺とも1曲いいか?踊る相手がいないんだ」
「…踊りたいのはほんっとうにほんとなんだけど、お兄様がリヒャルト君とアリエス以外ダメだって…」
「あきらめなさいタウルス。どうせ従者から報告が行きます。いらぬ恨みは買いたくないでしょう?」
「なら領主の息子と踊ったら?相手にとって不足なしでしょ」
「お兄様、その例えはちょっと…。まぁでも、良いんじゃないですか?行ってらっしゃいなタウルス」
「そうか…。残念だがハインリヒは周到だな。リヒャルト、俺と踊ってくれるか?」
「あ、あの、よろ、喜んで…」
こうして舞踏会の夜は過ぎていった。
「テオ君おはよう。やっと落ち着いて領の案内が出来るね」
「おはようリヒャルト君。見どころはなに?」
「うちの領には鉱山があるんだよ。後で父様が連れていってくれるって。明日は最終日は東側を見に行こう?そうしたらちょうど帰りがけに夕日が見れるよ」
リヒャルト君自慢のヴェーバーの夕日…。ナスヴェッターの湿原で見た夕日と比べるものでもないけど…いろんな領から見るいろんな夕日がとても楽しみだ。
ヴェーバー伯が連れていってくれた鉱山はまるで洞窟みたいで、昔お父さんに連れていってもらった鍾乳洞を思い出させる。
「この鉱山では昔オリハルコンの採掘をしていたのです。あの光は名残ですな。いまは枯渇し魔鉄しか採れませぬが我が領の主要産業でございます」
「おおー…オリハルコン…」
ファンタジー味がある。
もう一つの鉄鉱山では人がたくさん働いていて、トロッコなんかも走っていて、王都では見る事の無いその光景に、僕はすっかり見入ってしまった。
ヴェーバーは広いけど砂漠も多く農地が多いわけじゃない。なのに活気を感じるのはこの鉱山があるからなんだって。
広い世界を知るのはとても楽しい。長い間誰より狭い世界に居たから…しみじみと…そう思う。
そして最終日、1週間ってあっという間。
広がる農園と所々に居る野生の動物。気分はすっかりサファリパークだ。
「あ、赤いキツネだ」
「ホットフォックスだね。あいつら作物を荒らすんだ、困っちゃうよ」
「すごく可愛いのに。冬毛がふわふわしてる」
「あれああ見えて熱いから気を付けて。触っちゃダメだよ」
熱いのか…。飼えないし触れないな…。残念だな可愛いのに。でもそうか熱いのか…
「うーん、アレの毛で防寒着とか作れないかな?ルトガー君が喜びそう」
「ルトガー君が?」
「ナスヴェッターの冬は寒いんだよ。それでルトガー君とこからスライムもらって保冷剤作ったらここの夏も楽になるし…。交換したらちょうどいいね」
「テオ、それは良い考えだな。リヒャルト、ヴェーバー伯に話してみてはどうだ」
「は、はい。帰ったらすぐにでも」
「あっあっ、換毛期の毛にしてね。無理にむしったら可哀そう…」
動物は大切に。お母さんの教えだ。
ほんのちょっとした思い付き。でもこの事もレポートには書いておこう。きっと他領でも役にたつに違いない。
この世界はなんでも領内完結。アストランティアという国に居ながら、一つ一つの領がそれぞれちっちゃな国みたいだ。
例外は巡回している商人だけ。だから交易といっても小規模なものだ。
もっと領と領が仲良くなって交流とかすればいいのにね。
けど派閥とか…領地を巡る争いとか…、貴族には色々あって、だから王様は大変なんだってレグルスが言ってた。だって良い事思いついても無理強いは出来ない。王都の外では。
帰り道、緑から乾燥地帯へ視界が変わる場所にその光景は現れる。
「ほら見て!これが僕の大好きなヴェーバーの夕日。地平線の向こうが真っ赤でしょ?」
「…本当にキレイ…宝石みたい…空が燃えてる…」
「ナスヴェッターとは対照的ですね。…どちらも甲乙つけがたい美しさです…」
真っ赤な空がとても幻想的で…オレンジ色の夕日が地平線の向こう側に沈んでいくのを、瞬きするのも忘れてずっと見ていた。
そんなとっておきの思い出と共に春の外遊は終わりを告げた。




