115 やり直しの野外演習 2月
あ~あ、またこの時がやって来てしまった。冬の野外演習…
何とかして回避しようとお兄様にも散々訴えたのに…
そもそも悪役令息の兄なのに、なんてお兄様はあんなにもお勉強にだけうるさいんだろう?
すっごい過保護と教育熱心…それは矛盾でもあり両立でもある。
「テオ君、今年も同じ班になったね。今年も何か秘密兵器持ってきたの?」
「去年と同じハバネロスプレーと…どくだみの虫よけスプレーと…、武器っぽいものはお兄様からダメ出しが出たから代わりに爆音機」
試しに鳴らしたら「やかましい!」って先生に没収された…。うぅ…いいアイデアだと思ったのに。
「テオドール様、その節はキャリーをプレゼントしてくださって嬉しゅうございましたわ。今日は変わった柄の上着ですのね。それもブラウニングで販売なさるの?テオドール様の雰囲気ではございませんが良くお似合いですわね」
「迷彩柄っていうんだよ。林や森と一体になるための…」
「一体に…ああ、目くらましと言うことかしら?」
「あ、そうそう。そういうこと!たまたま絵の宿題失敗した時そんな感じになったからそれを見本に作ってもらったの。ところでどうして僕だけいつも絵画の宿題があるのか知ってる?」
「テオ君がいつも『雪の中の白うさぎ』とか『暗闇のカラス』とかを提出するからだよ」
なんとっ!
クラウゼ伯爵家のご令嬢ヒルデガード嬢が慈愛に満ちた目で僕を見ていた…
今回も僕とリヒャルト君は結界で守られたEエリアだ。まぁ、去年は何故かBエリアに居たんだけど。
ルトガー君はDエリア。一緒じゃないのが残念だし心細い。ルトガー君からはなにかこう…大物感を感じるのだよ。
そして今回はコリーンに代わりいつもお上品なヒルデガード嬢が御一緒だ。
去年の事件、そのうえ僕の演習の成績が壊滅的すぎて、この三人には先生が一人つきっきりだ。つまりここにいる三人は…ドベ三ということ。隙を見てサボろうと思ったのにこれじゃ逃げられない…
「まぁネズミ…。おぞましいわ。リヒャルト様、あなた男でしょう?何とかなさって。ほら早く!」
「えっ、ええ~…押さないでよヒルデ嬢、僕になんとか出来るとでも?」
「もうっ!しょうがないなぁ。えいっ!」
バシュバシュとハバネロボールをぶつけながら前に進む僕たち。今回のハバネロボールには何を隠そうにんにくも入れてきた。おかげで逃げ出し感がパワーアップだ。
ん…?なんか…背中が重い…
「ああっ!テオ君背中!プランクモンキー!」
「えっ?きょえーーー!なんとか、なんとかしてよぉ!せ、せんせい、せんせー!」
「テオドール、静かにするんだ。そう、静かに…そーっとそーっと」
「ぅぅぅ…」
「まぁ大変。こちらにもおサルさんがいっぱい…。こんなにいると可愛くありませんわ」
「しまった!」
「え、ぎゃぁぁぁ!」
いつの間にか群れになってたプランクモンキーは、僕をひょいっと持ち上げるとどこかへ一目散。
「もうっ!なんなの!毎年毎年!」
どこかの草むらに連れ込まれた僕はあっという間に放り出された。奴らの目的は僕のリュックだ。
サルは中からおやつを取り出し、もしゃもしゃと残らず食べ尽くしていく。ああ…非常食が…
ここにはサルどころかニードルスクワールなんかも居たりして…、そのうえサルのこぼしたクッキーのかけらを狙って鳥たちまでわんさかやってくる有様。
その中の一匹と目が合う。
「ひっ!」
じりじりと近寄り僕の服を…迷彩柄の上着をむしり取るオイタな猿!
「いやぁん、だめぇ、こっち来ないで!やめてよぉっ!僕の大切なもの奪わないでぇ!」
ポケットの隠しおやつまで奪われた…。うぅ…ぐす…僕のクッキー…
ガサガサ…
ドキッ!
ハァハァハァ「お兄様っ!ずいぶん官能的な声がしましたが大丈夫ですか!…大丈夫なようですね…」
ハァハァハァ「テ、テオ、何があった…」
「アリエス!アルタイル!どうしてここに?」
「僕とお兄様には同じバスティト様の加護がありますので何かあると分かるんですよ」
それってつまりGPS…
「なるほどな…餌目当てか…」
「上着もボロボロになって…怪我が無くてなによりですけど、こっ、このサル!どうしてくれようか…」
「あっ、あっ、僕のクッキーが美味しすぎたのが悪いんだからヒドイ事しないであげて?生き物は大切にだよ」
その時、鳥の中の一羽が大きな金羽に姿を変えた。
「ひゃ!」
「何事!」
驚きのあまり身動き一つとれない僕たち。
するとその大きな鳥はそのきれいな羽を嘴でむしるとこちらへ飛ばした。
「…イヤーカフ?」
「これは…」
それは何かの魔道具のようだった。魔力を流すと増幅され…増幅され…増幅は⁉
「あ…お、お兄様。ほら、クリーンの範囲がちょっぴり大きくなって、ね、良かったですね、ね」
「あー…テオその…言いずらいがこれは風属性のエンチャントのようだ」
「風属性…えっ!ならこの大きな鳥さんは…」
風神の使いシュー…
なんてことだ。バスティト様の仲間じゃないか…
「待て、カフを通じて伝わってくる。このカフは森の動物たちへの食事の礼だと」
「……アル…結婚おめでとう。お祝いにそれあげるね。遠慮なくもらっ…ぐすん…」
「あ、ああ…」
どうせ僕には持ち腐れだし…うぅ…
その増幅された風を使ってアルタイルが草木を掻き分け先を進むが…イマイチ解せぬ…
そして僕はアリエスに手を引かれみんなのいる場所へと歩いていた。
ふと思う。
アリエスが結婚したらもうこんなふうに歩けないんだなぁ…って。
ついしんみりしてその腕に腕を絡めてしがみついた。
「おっ、お兄様っ!嬉しいですけど、ど、どうしたんです?」
「ううん。はじめて王城のお茶会行った帰りもこうして連れて帰ってもらったなぁ…って思って」
「ふふ、はじめてのデートでしたね」
「あの時はテオに随分と嫌われていた…。覚えているか?」
「もちろん!」
あれからもう四年もたつんだ。
僕たちの関係はこうしてすっかり変わってしまった。アルタイル、大好きな友達。アリエス、僕の大切な弟。
「う…ぐす…アリエス、お嫁に行っても遊びに来てね…。僕の事忘れちゃやだよ…。一緒に寝ても良いから泊りに来てね…」
「本当ですか?じゃぁ早速今夜お兄様のお部屋にお邪魔しますね」
「え?あ、うん…そうしようね…」
寂しさのあまり、つい安易に返事をする。
アリエスは何年たっても一緒に寝るのが好きなのだ。冷え性だからって言うんだけど、手足が冷たかった試しは無い。
その数分後、アルタイルの口からは重大な秘密が明かされる。
「え?二人は結婚後離れに住むの?」
「ああ」
…僕はその時はじめて知らされたのだ。




