113 悪役令息の神髄
「見ちゃったよ…、殿下、テオ君にキスしてたね。だ、大胆…」
「婚約者だからね。するでしょ。あーあ。」
「でもテオ君は仮だって言いはってるけど?」
「未成人だから一応仮っていう名目になってるけど…王家に望まれて断るなんてあり得ると思う?」
「思わないけど」
「それに殿下は一年前、テオ君が狙われたあの事件の時も凄い剣幕で…、テオ君の知恵が欲しいだけだなんて噂も一部あったけど…違うねあれは。僕もう正直、終わった…と思ったからね、あの時」
「あー、あの時ね。ゾンビウルフに狙われたテオ君よりリヒャルト君のほうがゾンビみたいになってたよね」
「ルトガー君にも沢山慰めてもらったよね」
「同室のよしみだよ。同じクラスならカバーしてあげられたんだけどね。ごめんね、中級クラスで」
「…こちらこそごめんね……初級クラスで…」
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「やぁ、アリエス婚約おめでとう。」
「ありがとうございます殿下、僕の出自でブルースター家と縁が結べるなど考えてもみませんでした。僕はお兄様の守護者として独身を貫く気でいたのですよ」
「〝光の神子”が何を言う。加護持ちのアリエスを迎えることが出来、むしろブルースター家はこれで安泰だと思うんじゃないのかい」
「ああそうだな。兄は俺のことよりアリエスの加護に興味深々だ」
バスティト様から加護を貰って、一応僕とアリエスは聖人認定されている。
光属性のアリエスは、太陽神の子、神獣バスティト様の加護を得たことで光の神子の称号がついた。
そして僕にはバスティトの愛し子…などという、神童に代わり、わけのわからない新たな称号がついたようだ。
そりゃぁ、もうすぐ十六なのに、いつまでも神童は無いよね、童って子供のことじゃん?
だけど僕は知っている。
僕は愛し子なんかじゃない……そう、ただのおネコ様お世話係だということを。
なんにせよ、舐められていると言うことだけは…ハッキリしている…
加護の話が出たことでデルフィが奉納の予定を聞いて来た。次も同行するらしい。
デルフィにはあのワンドとは別に、大きくて柔らかいブラシを必ず持っていくよう言わなくては。それはきっとバスティト様のテンションを上げるはずだから。
「ところでテオ、いつからレグルスと一緒だったんだ?一緒に来たはずがいつの間にか姿をくらましてね、探していたんだ」
「ちょっと前だよ。なんでか知らないけど温室まで会いに来たの。リヒャルト君たちは遠慮してどっか行っちゃうし…、超迷惑」
「何をやってるんだか…。そうだテオ、言っておくが僕は君の味方だ。君が誰を選ぼうと。それを忘れないでくれ」
「デルフィ…」ジーン…
あれほど高位貴族の義務だ責務だとうるさかったデルフィが、こうして僕の味方だって宣言してくれる日が来るなんて。感動だよ!
でもこの言葉の意味は例の件についてだろう。
はっきり言ってレグルスは立派な王子様だ。そんなのはゲームの時から良く知っている。
正直…大変なレグルスを助けてあげたいと思う。だけどレグルスは…
彼は僕の気持ちを置いてきぼりにして、いつでも一人で何でも決めちゃうから…
だからなんだか素直に「うんっ」って言えないのだ…
「いつまでも引き延ばすのが得策とは思えませんよ。思わせぶりな態度で殿下を困らせずそろそろハッキリさせてはいかがです?不敬がすぎるとはお考えになれませんか?」
な、なんだと…?
ズバっとストレートに嫌みを言うのはケフィウスさんだ。彼はいつも圧が強い。だからってその言い分には…異議あり!
「そうだけど、ハッキリさせないのはレグルスじゃない。僕が決心すると何かを察知してかすぐ誤魔化して言えない雰囲気にしてくるし…」
僕は言われっぱなしの良い子なんかじゃないんだからね!
「ケフィウスさんはいつもそうやってレグルスの味方をするけど…僕だけが悪いみたいに言わないで!ほんとは僕のこと反対なんでしょ?分かってるよそれぐらい!」
僕は長年の経験でネガティブセンサーついてんだから!
「…嫌われるのなんか慣れっこだから別にいいけど」
「テオ…そんなこと言うんじゃない。慣れっこだなんて…」
「だってほんとの事だもん!レグルスはケフィウスさんの理想の王子だからその相手が僕じゃ嫌なんだよ!」
「っ!そ、そんなことは…」
「僕にだって思うところはあるんだから!レグルスが休めない理由の半分はケフィウスさんのせいじゃんか!従者ならお仕事減らせばいいのに増やしてばかり!」
「な!」
従者っていわば秘書でしょ?ならスケジュール管理も仕事のうちじゃん。
なのに理想に燃える若き主従は次から次へとやることを増やして、その半分がケフィウスさんの発案だって知ってるんだから!
「不真面目な僕の事をケフィウスさんの理想から外れてて嫌だと思うなら、僕じゃなくレグルスにそう言えばいい!」
「くっ…」
言い合いを始めた僕たちの側になんだなんだとアリエス達までがやってくる。険しい顔のアリエスとは反対にレグルスはいつもの涼しい顔だ。
「テオ、ケフィウスの理想は私の理想だ。私たちはこの国を思う気持ちを共有している。だが彼も少し言い過ぎた。ケフィウスを許してやってくれないかい」
「許すも何も…僕は誰に何を思われたって平気って言ってるじゃない。でもこれは僕じゃなくってレグルスとケフィウスさんの問題だと思う!ケフィウスさんの不満はレグルスが解消して!」
ぶー垂れてそっぽを向いて見せる。
そもそも前から思ってたんだ。ケフィウスさんは僕にだけ物言いがきついなって。あんなの八つ当たりじゃん。ああスッキリした。
「殿下になんと言う口の聞き方を…、だからあなたは王太子妃には向かないというのだ!」
ほら見ろ!
「ケフィウスそこまでだ。テオドールもそれ以上は言ってはいけない、テオはもっと思いやりのある子だろう?」
「僕は前も今も変わらず悪役だよ。みんなだっていつも言うじゃない。僕の事悪い子だって」
「お兄様、あれはそういう意味では…」
「アリエスだって開き直ったって言ったじゃないか。僕も開き直る事にする。もう知らないっ!」
どうせ僕から悪い子の評判は無くなりはしない。この数か月でよくわかった。
それならいっそ思う存分、悪役令息を堪能してやろうじゃないか。
波風立てず穏便になんて、考えた僕が馬鹿だった。
今日からは悪役令息らしく、先生にいくら叱られたって演習の授業さぼっちゃうし、シェフにどんな嫌味言われても嫌いな野菜残しちゃうし、侍従にガミガミ怒られても布団の中でお菓子食べちゃったりするし、好き勝手にするんだから。
…どれもこれも悪役令息にならないようにって今まで我慢してたけど……もう良い子になんてしないんだから!




