111 三者三様
新学期!寒い日は続いてるけど心の中は暖かい。
ジローとお兄様の初顔合わせは円満のまま終了した。
ジローはとても興奮していたしお兄様もニコニコしていた。心配なんか必要なかった。やっぱりお兄様はいつでも味方だ!
ふと教室の中を見るとルトガー君とリヒャルト君が何やらぎゃーぎゃー騒いでる。
「ルトガー君お帰り!リヒャルト君久しぶり!あのね、今度アリエスとアルタイルの婚約披露をやるんだけど…来てくれる?」
ゲームでは主人公アリエスとしてアルタイルルートばかりやりこんでた僕。
薄れてきている記憶の中、二人が並んでるとちょっと懐かしいのは僕だけの秘密だ。
ゲームの画面がそっくりそのまま出てきたようで、なんだか達成感やら満足感やら、エンディングテーマまで頭を流れていったりして。
あれ?もしかしてこれは攻略したと…言えなくもない?
「そっ、そんな小首かしげて…テオ君って反則的に可愛いよね…」
「リヒャルト君、きみ…まぁいいや、もちろん行かせてもらうよ。でもいいのかな?僕たちたいしたお祝い用意できないよ?」
「このお披露目は簡素にやるんだって。春にはお兄様の結婚のお式があるから、アリエス達の婚約式は王都にいる人しか呼ばないし、お祝いの品も心ばかりで十分だって。この間は部屋でしか遊ばなかったもんね。今度は外で遊ぼう?僕の薬草園見せてあげる」
「そうなの?じゃぁお言葉に甘えて…」
「ところでなに騒いでたの?ケンカかと思ってドキドキしちゃった」
「あ、それ!ちょっとテオ君!ルトガー君と踊ったって?ずるいよ!彼とばっかり!」
とばっちり…あれは僕の意思ではないのに。
そんな風に僕の新学期はおめでたムードで始まったのだ。
--------------
「まさかお前とアリエスがな。初恋の相手だ、プッ、クク…良かったじゃないか。しかし、この間決まった婚約のお披露目がこの月末とは随分用意周到だな…」
俺とアリエスを冷やかしながら赤毛の親友は胡乱な目を向ける。
父を支え稽古にはげみ騎士団の立て直しに尽力する、そんな彼からは青臭さがずいぶん抜けた。
今まではその立派な体躯を持ち腐れ、どこか頼りなさを感じたものだが、すっかり大人の男へと変貌を遂げたようだ。
「ああ、ハインリヒ様は初めからすべてを計算済みだ。父上はこの縁組に諸手を挙げて喜んでいる。父をその気にさせたのはハインリヒ様だ。まったく巧妙な…、所詮俺など眼中にもないと言う事だ」
「まあ腐るな」
「腐っちゃいない。むしろ感心してるんだよ。あの小利口なアリエスまでをも出し抜くとは、完敗だ。さすがはこの国の始まりより王家を支え共に歩んできた家門の血を引く後継者だ」
「古き家門の中でもレッドフォードは別格だからな。俺は土俵に上がらず幸いだったよ」
テオドールへの騎士の誓いが受け入れられず、しばらくやさぐれていた事実は俺の胸にしまっておいてやろう。それでもタウルスの父、聖騎士団長は、ハインリヒのその配慮に涙を流さんばかりに感謝していた。
それすらつい穿った目で見てしまうのは俺の心が汚れているのか?
「王太子とレッドフォードの嫡男。次世代の二大巨頭と言う訳か」
「とんでもない男たちに好かれたものだ。テオドールが気の毒に思えてきたよ。ハハッ、普通の男では役不足って事か。アルタイル、お前にももう少し骨があればな」
「言うな…」
笑いながら人の傷口に塩を塗り込むとはなんてひどい奴なんだ。そう言うお前は骨どころか最初から逃げ腰だったくせに。
お前も当たって砕けて見せれば良かっただろうが!…いや、当たる前から粉砕していたな、こいつは。
悔いを残さず済んだだけ俺の方がましなのかもな…
「おや、お二人お揃いで。こんなところでなんの悪だくみですか?」
「アリエス」
教授の用を済まし教室に入って来たのは…そう、誰もが周知する俺の婚約者だ。
「言っておくけどハインリヒ様はあなた方では太刀打ちできませんよ。この僕でもダメだったのですから。見たでしょう?上手くジローを丸め込んで…。あのやり口は僕の時と同じです。なのにお兄様はハインリヒ様がジローを受け入れたことに気を良くしますますベッタリしておいでです…。何ですかあれ!」
「アリエス…優れた軍師は一手でいくつもの結果を得るんだ。そう考えるとハインリヒに逆らうなど夢でもあり得ない。侯爵はこの婚姻を持って爵位を一つ譲り渡すんだろう?これで名実ともに当主となるのか。俺は恐ろしいよ、あのハインリヒがこれ以上の力を持つなど…」
「…ですがハインリヒ様はお兄様のために鬼となりますが時にお兄様に関しては腑抜けにもなるのですよ。要はやりようです。彼を見くびり僕は失敗しましたが…、それにしてもわかってませんね皆さま。そう、殿下もそこをお分かりでは無いのです。真正面からぶつかるなど愚の骨頂!馬鹿の極みですね!」
「アリーお前…、…聞かなかったことにしといてやる。いいな…」
そう、アリエスにも間違いなく…レッドフォードの血が流れているのだ…
--------------
「マカ、テオからもらった靴下の履き心地はどうだ?」
「ああ?別に…ま、すっげ暖かいけどな…それがなんだよ…」
ところどころ毛糸の飛び出した手編みの靴下。上等の毛糸で編んだそれは今も俺の足元を温めている。こんなスラムのガキでしかなかった俺の足元を…
「何ですか、だろうが!まあいい。ゴムを使ってあれと同じようなものを作りたいんだがどう加工すればいい?」
「筒にするって事か。筒にしてどうすんだよ」
俺の発想がなかなか良いと、ジローはちょこちょここうして意見を聞いてくる。そのたび仕事の手を止められてうっとうしいけど、悪い気分じゃないのはここだけの話だ。
「テオの発案で馬車の車輪は木枠から木枠にゴムを巻き付けたものになった。おかげで馬車の乗り心地は格段に上がった。だがテオはしょせん木枠が芯じゃ地面からの衝撃ですぐダメになると言った。つまりそれは芯が固くちゃ路面からの衝撃は吸収できないって意味だ」
「分かんねーよ。どういう事だよ?」
「つまりだな、ほら、そのカップ寄越せ。これをこうしてクッションの上に落としても割れね、割れないが、こっちのテラコッタの床に落とすと…」
「あーあー、割れちまったじゃねぇか!誰がかたすんだよこれ!」
「お前に決まってるだろうが。そんなことより、わかるか?柔らかいものは衝撃を吸収するんだ。だから車輪の芯をもっと柔らかくしたら乗り心地はもっと良くなるしゴムの持ちも良くなるはずだ」
「あー、あ?つまり?」
自分で割っといて片付けんの俺かよ⁉
理不尽だと思いながらもその話の続きを促す。
「ゴムを筒状にして中に空気を入れる。それを車輪にするんだ」
「よく分かんねぇけど空気が漏れないよう筒に加工する方法考えりゃいいんだな?」
「そう言う事だ」
言ってる意味は半分くらいしかわかんねぇけど、何かを考えんのは意外と面白い。何も持たないスラムのガキには何をするにも工夫が必要だからな。
「筒…ゴムを筒に…」
「おい、明日は学校の日だろう?今夜はもういいから帰って早く寝ろ!」
「なんだよ!自分から振っといて!」
ジローは言う事が思い付きで変わるんだよな、いい迷惑だぜ。
「いいか、俺はお前をいずれ幹部にと考えてる。そのために最低でも読み書きは必須だ。飯だけ食って帰ってくんじゃねえ。貴族連中が好かないってんなら馬鹿にされないよう自分を磨け。拗ねてるだけじゃ何者にもなれねえぞ!」
「わ、分かったよ…掃除済んだら帰る。そんでいいだろ」
思いがけずかけられた言葉に何とも言えない気分になる。
俺が商会の幹部に?
スラム出身の薄汚い俺が、貴族を相手にいっぱしの商人になれんのか?まさかそんな事…
「やる気が出たか?目標は必要だよなお互いに。期待してんだ。まぁ頑張れ」
バカヤロー!こんな気分で眠れるわけないだろうがっ!




