105 ナスヴェッター!!③
夜は子爵が頑張って用意してくれた歓迎の夜会が開催される。
田舎の素朴なパーティーだと思えば王宮の時ほど緊張はしない。
「ん?こんな所に僕用の衣装が…」
「ああ。私が用意させた。ほんの数日の滞在とは言え夜会があることは聞いていたからね。準備をするのは当然だろう?」
なんて周到なんだろう。だってこれって新調してあるよ?お兄様とお揃いの見たこと無い衣装…。ペアルックか…。お兄様も田舎のパーティーだからはっちゃけちゃった?
ともかく、こうして楽しいパーティーがはじまったのだ。
「ほらテオドール手を貸してごらん。一緒に踊ろう」
「えぇ…でも僕ダンスは苦手で…。ほら、王宮の夜会でも上手く踊れなかったし、お兄様に恥をかかせるわけには…」
なんとかしてダンスを回避しようとあーでもないこーでもないと駄々をこねてみたけど、ダメだったか…。お兄様からは確固たる決意が垣間見えた。
「以前練習をしただろう?お兄様はこうしてテオと夜会の場で踊るのをとても楽しみにしていたのだよ。ここなら権勢をふるう貴族家はいない。誰の目も口も気にせず踊れると言うものだ」
「テオ君、ハインリヒ様はこの夜会にわざわざ楽団まで手配下さったんだよ。君にダンスを楽しんでもらうためにって。踊らなかったら罰が当たるよ!」
何てことだ!お兄様がそこまでダンスが好きだったなんて!
そういえば昔レッスンの時もすごく楽しそうにしてたっけ。そこまで言われて断ったら男がスタル!
フロアーに進み出ようとした時、背後からアリエスが小さく何かをつぶやいていた。
「衣装どころか楽団まで…まさかこの外遊…これが目当てだったとか言いませんよね?」
「まぁ仲の良いご兄弟…」
「キリリとしたハインリヒ様とあの神からのギフトと称えられるテオドール様。なんと見目の良い…」
「テオドール様の問題が消えうせようやくハインリヒ様は結婚が決まったようですわね」
「それがほら、モーリィ伯爵家のご息女ですって」
「まぁ、モーリィ伯爵には幸いでしたわね」
「そういえばお聞きになりまして!川向こうの男爵家では息子の女遊びが…」「まぁぁ!」
相変わらず社交界は噂話が花盛り。けどもう僕を嫌な目で見てくる人は居ない。
それにここはナスヴェッター。貴族とは言えその会話は若干田舎のおばちゃん味が混ざっている。
「ほ~らテオドール、まわってごらん」
「ひゃぁぁ~!」
「ふふっ、王宮の夜会で踊るテオを見た時からこうして私の手で回してみたかったのだよ」
「こ、こないだ回し、回したっ、アリエスとっ!」
「あれはお仕置きだろう?それよりもっとこちらへ寄って」
「はひぃ…」
ぶっ続けで三曲ほど踊って大満足なお兄様。僕はすっかりヘロヘロだ。気がつけばいつの間にかアリエスもアルタイルとダンスを楽しんでいたようだ。
ぐったりして休んでる僕と屋敷では見ないほど生き生きとしたお兄様に近づいてきた人物が居る。
なな、なんと、その人物とはオリヴィアさんのうかつなお父様だ!
これからは親戚になるんだし、ここはしっかり挨拶しておかなければ。
「オリヴィアさんのお父様…。はじめましてテオドールです。オリヴィアさんにはいつもお世話になってます」
「これはこれは愛らしい…、オリヴィアから噂はかねがね。先だっての騒動は大変でしたな」
丁寧にあいさつをする僕にアリエスが笑いかける。でも次の瞬間、アリエスのその笑顔は硬直することになる。
「伯よ、もう一人の弟を紹介しておこう。アリエスこちらへ。ああ、アルタイルも一緒に」
「おお、アリエス様でございますな」
「ああ、末の弟アリエスと、その婚約者、ブルースター伯爵家のアルタイルだ」
「!」
「!」
「はっ?」
ええーー!初めて聞いたんだけどぉ?
さすがの僕もここで大きな声出しちゃダメなことぐらいは分かってる。平静に…平静に…
あ、あれ?アリエス達も少しキョドってる?もしかして聞いてなかったのかな?
で、でもにこやかにあいさつを交わしてるし、きっと人前で言われて照れたんだろう。そうに違いない。
ダンジョンでアルは血迷っていたけど、あれからもう二か月もたつ。人の心とは移り変わる。こんなこともあるあるだよね。
とういうか、ヒロインであるアリエスのシナリオはいつの間にかアルタイルルートに入ってたらしい。
もうオリジナルストーリーは崩壊してるし関係ないっちゃ関係ないけど、気になるっちゃ気になる。
…アリエスはアルタイルの相談にいつも乗ってた。
「何を?」って聞くといつも「いろいろあるんですよ」って返ってきてたけど…
アリエスに悩みを相談する。あれがフラグだったのか。
断罪が終わってからも僕は時々ゲームの事を考えていた。
タウルスにフラグが立たなかったのはアリエスが優しくしなかったせいだ。
タウルスの好感度は優しくされるたびに跳ね上がる。
だけどアリエスは僕の味方に付いたからタウルスにはいつも厳しかった。フラグ崩壊。ごねんねタウルス。
デルフィにフラグが立たなかったのは…誰もデルフィヌスのプライドをへし折らなかったからだ。
プライドを折られるたびに上がる好感度バー。
だけど僕がデルフィに懐いたから…、だからデルフィのプライドはくすぐられこそすれ折れなかった。フラグ崩壊。ごめんねデルフィヌス。
前世のゲームで僕が見れなかった隠しキャラとは、きっとケフィウスさんで間違いないだろう。だって名前が星座だし、本編であれほど意味ありげに顔がシルエットだったし。
だけどモブのまま終わってしまったのは、僕が中等部に行かなくてほとんど出番が無くなったからだ。
レグルスのアシストキャラだったケフィウスさんの登場回数はテオドールのいじめに比例して増える。
…モブらせてごめんねケフィウスさん。
そんなことを考えてたらいつの間にかモーリィ伯との会話は終わってた。
そこへにこやかにやってくるルトガー君。なにか嫌な予感がする…
「ねぇテオ君、ご挨拶が終わったのなら僕とも踊ろうよ。へたくそでも僕は気にしないよ?」
さりげなくへたくそ認定かましたことをルトガー君は気づいているだろうか…




