104 ナスヴェッター!②
その沼地にはラバーケロッグが想像をはるかに超えるほどたくさんいて…
「なにこれ…」
「すごいですね…」
ビジュアルがとんでもないことになっている。大型犬ほどのサイズがある大量のカエル…、圧が…圧が凄い…
「ごめんねテオ君。繁殖期にはこうなっちゃうんだ。何をするわけでもない魔物だけど大きいし邪魔だよね」
「カエルは苦手じゃなかったんだけど…なんかこう圧迫感が…」
沼も含めた湿地帯では濡れることもあるって聞いてたから、僕は自作の合羽を用意していた。
素材は例のあのキャタピラーが吐いた糸だ!
ツルツルしていたあの糸は撥水性に優れていたらしい。水弾きの良いこの素材がこんな風に生かせるのなら、僕も身を犠牲にした甲斐があったと言うものだ。
デザインはポンチョタイプ。頭から被って首のところで留める仕様。
「これっててるてる…」
いや、そんなことはない。
靴だってちゃんと長靴を持ってきた。
魔法で乾かすみんなはそんな装備必要ないんだけど…僕はドライが、ううん、ドライも得意じゃない…
一人だけ恥ずかしいなって思ってたけど、ここにはお仲間ルトガー君がいる。彼は雨カッパに興味津々だし、お兄様とアリエスには可愛いって大好評!
「テオ、良いものを作らせたね」
「とても良くお似合いですよ」
「…そうかな?」
あっという間にご満悦。
ともかく問題はこのラバーケロッグだ。
「うぅ…数の暴力ってこういうこと?」
見た目だけなら巨大なアマガエルだけど、緑、黄色、青、実にカラフルだ。
てっきり後から色を付けてると思ったら元からだったとは。
「あれ、こんなところに赤いのがいっぱい…」
「テオ、赤のラバーケロッグは産卵直前で気が立ってる。長い舌で攻撃してくるから気を付けるんだ」
僕と冒険者になるって言ってたアルは魔獣にもとても詳しくなっている。それこそ僕よりも。負けた気分だよ!
「あ、ぎょぇーっ!」
油断してたら舌でべろってされた!それも集団で!
その舌圧で僕は簡単に転がされていた!びちょびちょだ!ヌメヌメする!
「うぇ…、やだぁ…きもち悪い…」
「おいでテオドール、お兄様が乾かし…て…」
「言ってるそばから何してるん…」
「お兄様、毒などはありませんからご安心を。それにしても」
「な、なに…?」
カエルの粘液でそこらじゅうががヌルヌルする。これ…どうすれば…
なのにみんなして黙ってじぃぃっと見てるだけ。僕を放置だなんてひどくない?
「クリーン!それからドライ!」
「ルトガー君!」
「僕もあんまり得意じゃないけどテオ君よりはだいぶましだからね」
「あ、ありがとう…ジーン…ん?だいぶまし?」
「あー、ゴホン、このままではテオドールが大変なことになるな。『氷よ、全てを凍らせ静寂を呼び起こせ。氷結!』」
お兄様に飛びついて僕は大興奮!
「あー!お兄様の氷結だ!初めて見る!かっこいい!すごいっ!」
目の前のラバーケロッグは全部凍ってしまった。カチンコチンだ。
その凍ったラバーケロッグはルトガー君ちの使用人が後で捕獲に来ることになった。捕獲?いや収穫?
「あ、どくだみだ」
動きの止まったラバーケロッグの隙間、落ち着いて見渡せばそこにはどくだみがいっぱい自生している!
田舎のほうのおばあちゃんがいつもお茶にしてたどくだみ草。
便秘に良し、むくみに良し、虫よけにもなるからっていつもザルで乾かしてた。
血管をキレイににするからっておじいちゃんにも無理やり飲ませてた。
この世界では今まで見たことなかった万能薬、それがどくだみ草!
「あ、テオ君触っちゃダメ!それすごく臭くて…それに繁殖力も強くて困った雑草なんだ」
「困らない!雑草じゃないよ。じゃぁ僕がお茶にしてあげる」
「え、お茶?ってどうやって…」
「葉っぱを天日で乾かすの。パリパリになるまで」
「お兄様、この地域は湿度が高くおそらく無理じゃないかと…」
ああ、だから知られてないのか。
じゃぁ僕が持って帰っても問題ないよね?
お茶にうがい薬に…虫よけと、それから化粧水。やったー!思いがけない大収穫だ。
ご機嫌で次に向かったのは夕闇迫る大きな湿原。
ルトガー君の言った通りだ。夕日が真っ赤にキラキラ反射してすごくきれい…。ところどころにある大きな水たまり?それから一面のスライムに…ってスライム!
「すご…ぜ、絶景…圧巻のスライム…」
「そうでしょ、この時間のこの光景を絶対君に見せたくて。あ、でもそろそろ暗くなるからスライムは見えなくなるし活発に動き出すから踏まないように気を付けてね」
「え、」…ズルッ「ぎゃんっ!」
言ってるそばから滑って転んで、これは本日二回目の尻もち。今日はお尻の災難デーだ。
「テオドール!大丈b」
『輝く光の槍よ、一面を貫け!エリアライトランス!』
駆け寄るお兄様を遮りアリエスの光の矢が一面に降り注いだ。
矢はピンポイントでスライムの核を貫き、その辺り一帯のスライムは一瞬にして一網打尽だ。
「大丈夫ですか?お兄様」
「すごいすごい!ライトランスの進化系?レベル上がったの?すごいかっこいい!」
「まぁ、この程度大したことありませんよ。ふふん」
「ぐっ…」
「はぁ…実にくだらない争いだな。テオ…ほら、クリーン。気をつけろよ」
アルタイルのあきれたような声も気にせず僕は十分ご満悦だ。
だってなんだか冒険者みたい。そう、この間のダンジョンよりもずっとそれらしい。
ぺしょっとなったスライムを一つ摘まんでドヤ顔でポーズをとる。
まるで自分の手柄みたいに。
そんな一日を終えた翌日。
今日のお昼間もルトガー君と農村を訪ねて歩く予定だ。
湿地の多いこの領地ではトウモロコシが主な作物。
それほど豊かな土地じゃないという話しだけど、領内の人はとても幸せそうだ。
緑と水のハーモニーを奏でるこの土地は、前世で通ってた小学校のビオトープを思い出させる。癒されるなぁ…
…ラバーケロッグさえいなければ…
そう。ここでは沼地以外の場所でも、ところどころに野良ラバーケロッグがたむろって道を塞いでいる。
ある意味とてものどかな光景と言えなくもないけど…これは早急に何とかしなくては。
「繫殖シーズン以外はここまでじゃないよ。でも野良仕事の邪魔で邪魔で」
そうでしょうとも!
さて、僕のもう一つの使命。それが貧しい土地の対策を聞き取り調査することだ。
レグルスは国の辺境で農作地を増やして収穫量を増やしたいみたいだった。
それを飢饉の対策につなげようと考えてるんだろうけど…、このきれいな風景をガラっと変えてしまうのはもったいないな。
それに急激な環境の変化は生態系とか大気がなんとか…いろいろ良くないって習った気がする。
「うーん、森林破壊以外の飢餓対策かぁ…」
なのか役に立つレポートをまとめたらレグルスはすこし楽になるだろうか?
喜んでくれるだろうか?




