地下歩道
上には大通りが走っている。
つまりここは地面の下、いわば地下歩道にあたるところだ。
俺が履いているゴム敷のランニングシューズであっても、十分反響するほどの広さ、長さ、そして静けさがある。
「合言葉を」
天井から吊り下げられている電球すらまばらで、間のところはほぼ何も見えない暗闇だ。
そこから声が聞こえる。
「穴あきチーズはどこがいい」
俺が通路の先の先を見ながら、声をかけてきた主を見ないようにして声を返す。
「手野市にある手野牧場はどうだ」
「あそこは穴あきじゃないぞ」
「じゃあスイスのチーズが一番だ」
そこまで言ってきて、ようやく姿を見せてくれる。
「情報は」
俺も同じタイミングで彼を見る。
情報屋といってしまえばそれまでの関係だが、いろいろと裏事情を聞いては、ソレの裏取りに走り回っている。
情報屋はもっといい人がいるが、その人物はいつも家から出てこないため、次善の策として彼を使っている。
「しかし、ブンヤは大変だな。こういったものにも手を出さんといけないなんてな」
茶封筒が1つ、彼の手には握られている。
「仕方ないだろうさ。今じゃ生き馬の目を抜くような大激戦。お前のような情報屋はとてつもなく貴重なのさ」
礼金は足がつかないもの。
ただ、彼は人並外れた博打好きだ。
次の土曜日にはもう一銭も手元には残っていないだろう。
「毎度あり」
茶封筒と引き換えに、俺は礼金を渡す。
そのまま俺はまっすぐに、彼は影の中に隠れていく。
茶封筒の中身といえば、地下通路の階段のところで確認をした。
今回は4つ入っている。
芸能人の結婚の話が1つ、不倫が2つ。
しかも不倫の話の一つは婚外子をもうけていたということも追記されている。
そして最後の1つが政治家のスキャンダル。
違法に金銭を授受していたのだという。
「これだな」
政治家に絞ろう、そう決めて残りは封筒へと戻し、階段の1番下の段、そこにある秘密の隙間に滑り込ませた。
政治家のメモについては、しっかりと懐にしまうと、寒風吹き荒ぶ街中へ戻るべく、階段を一歩また一歩と歩き出した。




