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歩むひととせ - 盛夏
「はっ! やっ! いやぁっ!!」
村外れの森に、鋭いかけ声が響く。
歳の頃は十一くらい。栗色の髪を後ろで高く束ね、身軽な貫頭衣を身に付けた少女が、一心不乱に木剣を振るっている。
その姿を腕組みをして見守るのは、長い黒髪を腰まで伸ばした女剣士だ。
「いいわねー、その調子。なかなかサマになってきてるわよ、フィア」
「はいっ、レイリさん!!」
「……でも、まだちょっと固いわねー」
「えっ? 今の動き、まだ何か変でしたか?」
「あー、違う違う。動きじゃなくって、呼び方。いちいち『さん』付けで呼ばれてたら、むず痒くってしょうがない。あ、そうだ。『師匠』とかどうよ? やー、あたしも弟子を取るなんて初めてだからさ。そういうのって、ちょっと憧れてたのよねー」
「わたしは別に、構いませんけど……」
「よっしゃ決まり! これからあたしのことは師匠と呼びなさい。いいわね、フィア!!」