32/32
歩むひととせ - 春望
そして、季節は巡る。
村の全景を一望できる小高い丘に、フィアは一人佇んでいた。
丘には淡い紫色の薫衣草が咲き誇り、花畑を清らかな香りで満たしている。
「……ロット君。今頃君は、どこでどうしているのかな?」
瞳を閉じ、今は遠い空の下にいるであろう少年に思いを馳せる。
「わたし、頑張ってるよ。まだ師匠には全然敵わないけど、自分にできる精一杯の努力をしてる。いつか君が旅から帰ってきた時、恥ずかしくないように」
ざあっ、と一陣の風が吹き抜けて、足元の花びらが舞い上がった。
「だから、ちゃんと無事に帰ってきて。約束だからね」
春風になびく髪を押さえたその時、後ろから声がかかる。
「見つけたわよ、フィア。あちこち探したんだからね」
「すみません、師匠。どうしたんですか?」
「あんた宛てに手紙が届いてたから、持ってきてあげたの。差出人は――」