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遥かな旅路、雲間の彼方  作者: 古代かなた
星降る夜のメロディ
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星降る夜のメロディ (6)

 魔笛騒動を起こしたザカリーの身柄は、駆けつけた衛兵によって早々に拘束された。


 当初は実家であるハルトマン家の威光を振りかざして強引に事態の収拾を図ろうとしていたものの、その目論見はあえなく崩れ去った。

 一部の貴族と結託して数々の悪事を働いてきたザカリーだったが、とうとうその事実が白日の下に晒されたのだ。

 その裏には、ミューザの街のとある有力者の働きかけがあったと噂されている。


 さしものハルトマン家も、これ以上は庇いきれないと判断したのだろう。当主でもある父親から直々に勘当を言い渡されたザカリーは、これまでの余罪も含めて、厳しい追及の対象となった。まだ取り調べの段階ではあるが、重罪は免れないだろう。


 シャルは優勝こそ逃したものの、大会の主催者から特別賞を贈られた。

 数々のアクシデントに見舞われてしまったため、採点自体が無効になってしまったが、観客からの圧倒的な支持と大会本部に届いた請願を受けての結果である。

 今大会における真の勝者がシャルであることは、誰の目から見ても明白だった。


 ステージで見せた優美な演奏から、人々は彼女に“星海ほしうみの歌姫”の二つ名を与えた。

 また、無数の明かりの魔術で会場を照らしだすという演出は大きな反響を呼び、今後の音楽祭における新たな定番となるのが確実視されているらしい。


「ねえ、本当によかったのかな? 大会でいっぱい賞金が出たから、謝礼だってちゃんと支払えるのに……」

「なに、元より謝礼など受け取る気はなかったさ。その賞金は、母君とお主自身のために役立てるがよい」

「うん。……何から何まで、ありがとねルタ様」


 音楽祭から数日後。

 ルタとロットを見送るために、シャルはミューザの街の門まで足を運んでいた。

 街を訪れた時と同じように、二人は冬の旅装に身を包んでいた。しばらく逡巡した後、シャルは意を決して話を切りだす。


「……あのね、ロット君」

「ん?」

「この街に残る気はない? これからもっと忙しくなるだろうし、そんな時に二人がいてくれたらとても心強いと思うんだ。君さえよかったらだけど……」


 彼女の申し出に対し、ロットははっきりと首を横に振った。


「オレはルタ様と共に旅を続ける。まだ見たことのない世界を見て、色々な経験をして、いつか一人前の魔術師になるのがオレの夢だから。だから、ここには残れない」

「……そっか。駄目で元々だったんだけど、ちょっと残念」

「ごめん、シャル……」

「あはは、そんな顔しないの。……それじゃさ、一つ言い当ててあげよっか?」

「え、何をだ?」


 悪戯っぽく笑うシャルの意図を汲みとれず、ロットは訝しげに首を傾げる。


「君が魔術師を目指してる理由ってさ……誰か、好きな女の子がいるからでしょ?」

「は、はあッ!?」

「ふふ、やっぱり図星か。ほんっと、君って歳の割にマセてるよねー」

「ち、違う!! オレは別に、そんなんじゃ……!!」

「照れなくたっていいじゃない。ねえねえ、どんな女の子なの? お姉さんに教えてよ」

「だから、違うって言ってるだろ!? なんで、急に年上ぶってるんだよ!!」

「ふふーん、実際に年上だからね。本当にからかい甲斐があって可愛いね、ロット君は」

「こ、この……!! いい加減にしろっ!!」

「きゃー、怒った怒った。怖いから逃ーげよっと」

「待てーっ!!」


 羞恥で顔を赤くしたロットが、シャルを追いかけ回す。二人の追いかけっこはしばらく続き、終わった頃にはお互いに息も絶え絶えになっていた。


「はぁ、はぁ……。逃げ足の、早いやつめ……」

「ロット君、もうちょっと体力つけた方がいいんじゃない? そんな調子じゃ、この先でやってけないよ?」

「余計な、お世話だ……。ったく、最後の最後に……」


 ひとしきり笑った後に、シャルは改めてロットに向き直る。


「……うん、決めた」

「決めたって、何をだ?」

「わたし、歌を作るよ。かつてこの街を訪れた、老魔法使いと見習い魔術師の歌を。君が次にこの街へ来る時までに、とびっきり有名な曲にしといたげる」

「それって、オレたちを題材にするってことか? ちょっと、恥ずかしいな……」

「ふふっ。歌うたいなりの最大限のお礼ってやつ。……だからさ、修行の旅が終わったらこの街に寄りなよ。そしたら、特等席でわたしの歌を聴かせてあげるから」

「……ああ、わかった。きっと、立ち寄らせてもらう」

「言ったなー。来なかったら、あることないこと言いふらすからね?」

「一言多いんだよ、シャルは……。それじゃ、またな」

「うん、またね!!」


 最後に固く握手を交わしてから、ロットとルタは街を後にした。


 シャルは二人の背中が見えなくなるまで手を振り続け、やがてその姿が地平線の彼方へ消えたところで踵を返す。

 胸に手を当ててそっと呟いたさよならが、冬の風にさらわれていった。

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