再会
中学三年生になり、沙奈は千郷のSNSアカウントを発見した。
「親友と同じ学校に行く!」
「桃園高校って入るの難しいのかな?」
「勉強、頑張らなきゃ!」
これらの情報から、真梨も市立桃園女子高等学校に行くことが示唆されていた。同じ高校に行けば、沙奈は「最初のマヴ」との再会を果たすこととなるだろう。
「ワタシも少し、本気を出さないとね」
狙いを定めた彼女は、高校受験の問題集を手に取った。それから彼女は学業に専念し、在宅時には自室で猛勉強ばかりしていた。
「この数式には、この公式を……」
「元来、論理演算はバイナリーで考えられてきたが、量子ビットにおいては0と1の重ね合わせの状態を表すこともできる」
「社会構成主義において、社会はコミュニケーションの相互作用から構築されるものとされている」
彼女が学ぶ分野は、多岐にわたっていた。真梨と同じ学校に行くには、これらの範囲を押さえておく必要があるらしい。そうして勉強に励んでいった彼女は、やがて高校受験を受けるに至った。会場では多くの学生が緊張感を噛みしめていたが、沙奈は余裕に満ちた表情で淡々と設問を解いていった。予習を徹底していた彼女に、切り抜けられない場面などないだろう。結果として、沙奈は無事に合格した。
やがて中学を卒業した沙奈は、市立桃園女子高等学校の校門を潜った。そこで彼女が目にしたものは、幼馴染の真梨だ。この一瞬、彼女は声をかけようと考えた。しかし真梨の隣では、千郷が屈託のない笑みを浮かべている。して、真梨もまた楽しそうな表情をしているのだ。
「千郷、合格おめでとう」
「あーしたち、これからも一緒だね!」
「うん。よろしくね、千郷」
もはやこの二人の間には、他者が介入する余地などない。それを突きつけられた沙奈は、少しばかり妬みのような感情を覚える。その感情は、すぐに破壊願望へとすり替わってしまう。
「あの子の隣は、もうワタシの居場所ではない」
「真梨はワタシの大切なマヴで、大切な推し。嗚呼、真梨の壊れるところが見たい」
「今が一番幸せみたいだから、壊すのも今じゃないと」
そんなことを考えながら、沙奈は微笑んだ。再会の時を三年間も待ち続けた彼女は今、それまでに抱き続けてきた野心に呑まれつつあった。
それは運命のいたずらだったのか、沙奈は奇しくも真梨と同じクラスになった。クラスが決まった時、真梨は驚いたような顔で沙奈の方を見た。
「久しぶりだね、沙奈……」
「うん、久しぶり。まさか、また会えるなんてね」
「そうだね、驚いたよ」
両者の間に、わずかながら不穏な緊張感がほとばしっていた。少なくとも、真梨は沙奈のことを覚えているようだ。ただそれだけの事実が、沙奈にとっては少し喜ばしいものであった。
「ねえ、真梨。ワタシたち……」
「ん?」
「……いや、なんでもないよ」
この一瞬、彼女は踏みとどまった。目の前の幼馴染と、もう一度マヴになれる可能性があったからだ。それでも彼女は、自らの心を制御する。
「いや、これではダメ。やはり真梨には、壊れる姿が一番似合う。ワタシが真梨を終わらせて、美しい破滅に導いてあげないといけないんだから」
半ば使命感のような欲望が、沙奈の中で渦巻いていく。そんな彼女の心情など知る由もない真梨は、すぐに千郷の方へと目を遣ってしまう。
「千郷。放課後、どっか行く?」
「じゃあ、買い物に付き合ってくれる?」
「うん。一緒に行こう」
少なくとも、真梨からより多くの愛着を得ているのは千郷だった。それは誰の目から見ても明らかだった。それから笑いながら雑談に耽る二人を前に、沙奈は疎外感を覚えた。さりとて、その寂しささえも歪んだ悪意に上書きされてしまう。
「孤立ゲーム、始めようか」




