トレンド操作
アカウント作成から数週間が経過し、真梨はあの三人からもアカウント群を譲り受けた。それから彼女は外部アプリを使い、一旦すべての書き込みを削除する。それから彼女はプロフィール文やアカウント名をアラビア語に変え、アカウントの怪しい雰囲気を演出した。
このアカウント群で真梨が一斉に投下するのは、バーサーク・バースを「不自然に」過剰評価する書き込みの数々である。
「#バーサーク・バース バーサーク・バース 神ゲーすぎるだろ! かつてないゲームシステムに加え、魅力的なバーサーカーたちも好き! プレイヤー人口、増えないかな?」
「#バーサーク・バース 神ゲーすぎる。最近流行っていると聞いたからやってみたんだけど、こんなに楽しいTCGはない」
「皆にオススメのカードゲームがあります。それが #バーサーク・バース という神ゲーです」
どれも似通った内容の投稿だが、それで問題はない。この手法を解説するのは、堕天使である。
「いいかい、悪魔。これはサジェスト汚染という手法だよ。これらの書き込みには共通して『バーサーク・バース 神ゲー』という文字列が含まれているでしょ? これが検索エンジンやSNSのトレンドに影響を与えて、サジェストを操作することができるんだ」
「つまり、真梨は今、珍しく千郷を手助けしているの? そのカードゲーム、千郷の父親がPRに携わっているんでしょ?」
「その父親すらも、千郷の拠り所にはならなくなる。何故なら世間は、これをステルスマーケティングと捉え、更にこのステマ工作が間接的にサジェスト汚染の方法をご教授しているからね」
何やら真梨は、徹底的に千郷を孤立させる道を選んだようだ。磔の天使が怒りに震える中で、堕天使と悪魔は更に話を続ける。
「これから人々の間で話題になるのは、ステマとサジェスト汚染。そのためにアカウント群のユーザー名をアラビア語にして、怪しさ満点にもしてあるんだ」
「確かに、アラビア語のユーザー名のアカウントが日本のプロダクトを過剰に持ち上げていたら、何か裏があると勘ぐってしまうね……」
「これがある程度炎上したら、後は第三者のフリをしてテキトーなゴシップ系インフルエンサーたちに情報提供するだけだよ。クリエイトピアがステマをしているとね」
それが今回の真梨の策略だった。それから数日間、真梨はこのアカウント群を積極的に動かし、他者の様々な「伸びている投稿」のリプライ欄にバーサーク・バースを持ち上げる投稿をし続けていった。当然、アカウントの数々は通知が鳴りやまず、酷く炎上し始めている。して、それは彼女自身の望んだ結果でもあるのだ。
さっそく、真梨は自らが演出したステルスマーケティングのスクリーンショットを撮っていき、それらを複数名のゴシップ系インフルエンサーに提供した。当然、雑にゴシップを取り扱っている彼らには、厳重なファクトチェックをするような良心などない。そうして更に数日が経過した頃には、様々なインフルエンサーがクリエイトピアを非難し始めた。その過程において、真梨の意図した通り、サジェスト汚染という手法も周知されていった。
燃え盛るインターネットを、真梨はモニター越しに見つめている。
「千郷……貴方は私だけを頼れば良い。貴方は、自らの肉親にさえすがってはならない。支えとなる柱が一つでも倒れれば、家庭なんて簡単に狂い始める」
そんなことを心の中で呟いた彼女は、デスクトップパソコンの電源を落としてからベッドに横たわる。千郷の家庭には甚大な被害がもたらされるが、真梨の日常は明日も続くのだ。して、彼女は千郷の置かれている状況について、何も知らないという体裁を保つ必要もある。
「おやすみ、千郷」
静かに目を瞑った真梨は、恍惚とした表情を浮かべていた。