探り合い
あれから三人はメッセンジャーアプリを導入し、次の三点について説明を受けた。
先ず前提として、このメッセンジャーアプリのシークレットモードでは、スクリーンショットが撮れない。
次に、メッセージは既読後に自動的に削除される。
そして、誰か一人でも裏切り者が出た場合、全員の人生が崩壊することとなる。
当然ながら、彼女たちはかつてない恐怖に怯えている。彼女たちは見知らぬ者に命を握られ、挙句の果てに手を汚すことを要求されているのだから。連帯責任を背負わされた三人は、深夜の公園に集結した。
彼女たちが集まったのは他でもない。
「……アタシたちの中に、裏切り者がいる」
「ウチは違うよ。主犯のアンタが怪しいんじゃない?」
「まあ待ってよ。わたしたちの中にいると決まったわけじゃないでしょ」
これは腹の探り合いだ。真梨のアリバイ工作が活き、三人は互いを疑わなければならない状況に追い詰められている。そこで主犯格の少女は、先ず情報を整理する。
「あの時、教室にいたのは、アタシたちと杏里だけ。つまり当日に録音データを突きつけることができる奴は、その四人の中に絞られるんだよ。知ってることは、洗いざらい吐いてもらうからね」
確かに、ラズベリー・パイの遠隔操作を想定しなければ、あの場で起きたことを録音できるのはその四人だけになる。その中から動機や状況を鑑みれば、疑いを向けられる者は更に一人の人物に絞られる。
「だったら、怪しいのは杏里だよ。ウチらが自分の首を絞めるわけがないじゃん!」
「そうだよね。わたしたちが裏切る理由なんかないもん」
あの四人の中では、確かに杏里が一番怪しいという理屈になるだろう。第三者がこの件に関与することなど、彼女たちからすれば想像に難いことである。
主犯は更に情報をまとめる。
「指示の内容は、千郷をいじめの標的にすること。そして、杏里には手を出さないこと。それから、行動の成果を証拠に残してMOMOZONO_500に送ること。決まりだね……杏里は今、アタシたちを潰そうとしている」
それが彼女の推理力の限界であった。残る二人もうなずき、その日は解散となった。
翌日の昼休み、三人は杏里に声をかける。
「杏里。アンタ、自分が何をしてるかわかってるの?」
「やっぱり調子に乗ってるよね?」
「アタシたちに逆らうと痛い目を見るよ?」
その声色は、威圧感に満ちていた。当然ながら、杏里は何も事情を知らない。彼女はただ、困惑するばかりである。
「あ、杏里……何かしたかな?」
一方で、事情を知らないのは三人も同じだ。
「とぼけるなよ!」
憤った主犯は、杏里の胸倉を掴み上げた。言うまでもなく、知らないことを答えるのは不可能だ。杏里は今、どう足掻いても詰んでいる有り様だ。
「ほ、本当に……知らない……」
「しらばっくれるな!」
「ひっ……!」
一発、そしてまた一発と、彼女の腹部に拳が叩き込まれる。そして彼女がうずくまれば、今度はその背中に蹴りが入る。この時、杏里は泣いていた。されど、彼女から情報を引き出すことはできない。
主犯は舌打ちをし、二人の取り巻きに伝える。
「このままじゃ、アタシたちの人生は終わる。ここはMOMOZONO_500の指示に従うしかないよ」
彼女たちは今、自らの人生を握られている。ほんの少しでも間違いを生めば、全てが終わるのだ。
「そうだね。結局、誰が裏切り者なのかわからないけど、指示に従わないと生きていけないのは間違いないよ」
「犯人がわかったら、タダじゃ済ませないけどね」
その心の中には、まだ反抗心のようなものが残されている。それでも彼女たちは、真梨の指示に従うことを選んだ。否、もはやそこに選択肢などない。彼女たちは、その道を選ばされたと言っても過言ではなかった。




