『味噌汁は美味い』という事を、私は知っている。
……煮干しをむしりながら、考える。
さて…今日の、味噌汁の具は……ナニにしよう?
いつもの定番、わかめ。
安心感のある、豆腐。
喉越しバツグンの、なめこ。
歯ごたえが楽しめる、えのき。
たまに食べたくなる、ほうれん草。
意外と美味しい、スパムとたまねぎ。
まろやかさなら、とき卵と刻みねぎ。
食べがいがあるのは、じゃがいも。
甘いのが食べたいなら、さつまいも。
あっさり食べたいなら、大根。
じゅわっとおいしい、油揚げ。
ツルンと食べられる、お麩。
豪勢に、具だくさんにしてもいいな。
豚汁、けんちん汁、田舎汁、あら汁、鶏ちゃん汁……。
味噌汁は…、本当に、美味いんだよね。
味噌の溶けた汁に具が入ると、実に美味い。
具だけ食べたあとも、ちゃんと美味い。
味噌汁の、懐のデカさときたら。
味噌汁の、相性のよさときたら。
味噌汁の、素晴らしさときたら。
余ったもやしを入れたときも美味かった。
賞味期限を過ぎたお彼岸団子を入れたときも美味かった。
中途半端に余った豚ひき肉を入れても美味かった。
たくさんもらったにんじんを入れても美味かった。
硬くなったチーズを入れてみても美味かった。
冷やご飯を入れて煮込んでみても美味かった。
枝豆が合うと言われて試してみても美味かった。
ナニを入れてもしっかり美味いので…、迷ってしまう。
頭とワタを取った煮干しと昆布を鍋に入れながら…、何を買おうか考える。
鍋に水を入れながら…、今日の味噌汁のイメージが下りてくるのを、待つ。
…………。
よし、今日は揚げナスにしよう。
確か、ナスミートを作った時の中途半端な残りがあったはず。
そうだ、余ってた冷凍カボチャも入れてしまおう。
微妙にボリュームがある味噌汁には…鶏肉のおかずが合いそうだ。
よし、キュウリたっぷりの棒棒鶏を作ろう。
買ってくるのは、鶏のささみとキュウリ、あと、明日の朝食べるパン。
……1000円持って行けば、足りるかな。
フフ、自炊って…楽しい。
煮干しを水につけて出汁を取るなんて…知らなかった。
煮干しでおいしい出汁が取れるなんて…知らなかった。
煮干しがこんなにいい仕事をするなんて…知らなかった。
繊細な味を教えてくれた、あの人に…感謝しないとね。
―――そのまま食べたらまずいだけだって!!
―――出汁を取ったらなんでも美味いんだって!!
―――出汁の取り方教えるから!!
―――ほら、ここにいっぱい載ってるだろ?!
ああ、私がもっと早く…この味を知っていたならば。
―――待て!!!早まるなっ!!!
―――と、とにかく一度美味い味噌汁を!!!
―――俺なら、美味い味噌汁を作れる!!!
―――だからっ!!!
―――ぎゃああああああああ!!!
あの人も、もっと美味かっただろうなあ……。