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第13話 『アレガルド・サンシャイン①』神前試合

 天暦3年 エイブラハム国立闘技館


 その日、闘技館には大勢の人が詰めかけていた。


 闘技館。もともと拳闘や舞踏などの興行が開かれる場所であり、一つのステージを囲うようにして観客席が設けられている。


 覇国が大陸を統治してから3年。その日、この場所で「神前試合」が開かれた。


 覇国の要請により、一年に一回、世界各地から猛者達が呼び出されている。


「今回は起用しましたか?」


「いえ、砂の国まで足を運んだのですがさっぱりで。・・・そちらは?」


「えぇ。一人だけですが本戦に出場が決定しました」


「それは羨ましい。鼻高々でしょうに」


 観客席にいる人たちから、ちらほらとそういった会話が聞こえてくる。


 観客席に座る人。誰もが一般人ではない。全員が大陸各所から集まってきた要人だった。


 戦火の時代に商団をまとめ上げた大商団の団長。

 妖刀を用いて軍事組織を形成した軍人。

 大陸の既得損益を喰らう領主達。

 大陸外からの視察官。


 いわば全員がこれからの覇国の運命を決める権力者だった。

 人を動かす力。

 全員がそれを持っていた。


 全員が実力を用いて人を従え、この地に城を建て、あの戦火を生き延びてきた強者だった。


 「やぁ、準備ができたようですな」


 「いやはや楽しみです」


 だが今回、闘技場に上がるのは別の意味での強者である。

 戦地を一人で潜り抜ける強者がいる。

 鋼具が通用しない強者がいる。

 誰もが恐れた鋼質有機体を殺し切った強者がいる。

 一騎当千の強者が、この世界に存在した。


「御来賓の皆様、今日はお集まりいただき誠にありがとうございます」

 今日、この闘技館にはそんな強者が揃い踏んでいた。

「本日の神前試合、開催できたことを深く感謝申し上げます」


 果ては未開拓領域の魔境から。

 果ては大陸最強と誉高い天使私設兵の中から。

 果ては武術界の最前線から。一同に集結していた。


 「神前試合本番まで、余興をお楽しみください」


 拍手が鳴った。鳴り止まない拍手が鳴った。闘技館が高揚感に包まれてる。

 この場で大陸最強が決まる。


 神前試合。天道教においても、覇国においてもこれは重要な政務であった。

 この国は、個人の力が軍団の力を上回る事例がいくつも存在した。


 『妖刀』、『鋼具』、『魔導書』。これらの異端の存在が、世界のあり方を捻じ曲げている。

 一個人が組織を揺るがしてしまうという現状。

 覇国もそれに従う要人達もそれを良しとはしなかった。


 そして行われる神前試合。神の名の下に、全ての武闘を曝け出す試合。

 覇国に付き従わない強力な『個』を炙り出し、それを叩き潰す狙いがあった。


 領主達は自分の人脈を用いて、強力な個人を見つけ出す。

 暴の力を持つ個人は、自分の力を世に示すいい機会だった。

 ここは、国家も領主も強者も、あらゆる人間が己の力を証明するための舞台である。


 「オレが強者だ。オレが、オレこそが最強だ」


 口には出さない。しかし、そこにいる全員がその思いを滾らせこの場に臨んでいた。

 余興が開始される。


 サーカス団が武闘館のステージに立ち、興行を行っていく。これからの闘技を行うための余興だった。

 玉やナイフでジャグリングを披露するピエロ。

 天井に吊るされた縄でアクロバットを演出する兄弟。

 糸により大量の人形を自在に操る人形劇者。

 火を吹く大男。猛獣使い。


 毎年行われる興行でもあり、政務でもあったが、全員がこの余興を冷めた気持ちで見ていた。


 はやく試合が見たい。そう皆が願っている。

 前は踊り子達によるダンス劇場で、その前は管弦楽団による演奏だった。

 大陸にある特色ある催しを会場にいる要人達に知ってもらう意図や、裏で経済的支援などの目的もあるが。


 「今年は失敗だな」


 誰もがそう思った。子供じゃないんだ。

 あまり見ていて楽しいものではない。

 自分の領地に呼んで行ってもらうなどの人脈形成は行うにしても、前と比べて見劣りするのは確かだった。


 全員が全員、目を細めている間に余興は終了した。


 早い終わりだった。


 少しだけ観客内がざわついた。早く終わるには越したことがないが、前よりもだいぶ早かった。

 機微を感じとる人間からしてみれば、これは異常事態と言っていい。


 その時、舞台に立つ司会進行役から言葉があった。

 「それでは余興の最終項目になります」

 観客席の要人達は、その言葉に首を傾げた。


 そんなものが予定にあったか?と思っていた・・・が。


「アレガルド・サンシャイン様より、試し斬りの演目です」

 サンシャイン。聞き間違えかと思った。

 全員が、舞台裏から出てくる人間を注視する。


「本物・・・か?」

 観客席がざわめく。


 銀色の髪。紅色の瞳。鼻筋の整った顔。


 ただならぬ雰囲気を纏い。白色の少年は舞台へと歩く。


「スゲェ・・・」


 ある者はその少年の正体に。

 ある者はその少年が持つ武器に。

 またはその両方に、驚き、恐れていた。


 その姿を見て、疑う人間は誰一人としていない。


 天使の一族。サンシャイン家。

 かの子息は、アレガルド・サンシャインである。

 そう皆が驚いていた。


 天道教という新宗教を打ち出し、市民の心を鷲掴みにした天使の一人『ウィスパー・サンシャイン』。

 アレガルド・サンシャインはその嫡子であった。

 確か今年で年齢が十三になる。


 『白色の姿で現界し、一目で人を恐れさせ、後光を身に纏い、神妙を操り、啓示を知らせ、道を正し、行く末を教え、導く存在』

 超自然的存在。天使の姿がそこにあった。


 それは間違いない天使の一族の一人だった。

 気付いた時には全員が目の覚めるような思いで、その子供の動向を探っていた。


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