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水氷の行方 ~氷の呪いを受けし奴隷少女、売られた先で大切にされ、砂漠の国を救う~  作者: 遠野月
歩み寄る

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すごいこと


翌朝。

レティアの寝室を訪れたアルトたちが、驚きの声を上げた。

寝室内が、濃い霧に満たされていたからだ。

壁に育つ氷も、これまでより大きくなっていた。



「……これは、いったい。レティア様は無事でしょうか」



テラが目を丸くして、霧に満ちた室内を覗く。

霧の向こう。一段高いところにある、レティアのベッド。

欠片ほども見えない。

三人は顔を見合わせ、意を決し、寝室に足を踏み入れた。


ベッドへ近付くにつれ、室内の冷気は薄れていった。

一段高くなった場所に至っては、やや暖かい。

分厚い氷は見当たらなくなり、代わりに床面が水浸しとなっていた。

その水を、ベッド周りに作られていた側溝が受け止め、室外へと排出していた。



「レティア様」



ようやく辿り着いたベッドに、アルトは手をかける。

ベッドの上に置かれた革袋は、水で濡れていた。

凍ることなく、弾力を保ち、温かさを放っている。



「ああ……レティア様」



ベッドの上にいるレティアの姿を見て、アルトは声をこぼした。

温かなベッドで、幸せそうな表情を浮かべて寝ているレティア。



「……こんなに幸せそうな顔をしていたら、起こせませんね」



テラとホミンが囁くように言う。

アルトは微笑みながら頷いた。


そうして三人は一度、寝室の外へ出た。

遅れてやってきたラスタが寝室へ入ろうとしたので、三人はラスタの腕を掴んで引きとめた。



「いいじゃんか、少しくらい」


「ダメです。あの寝顔、守りたいので」


「別に奪ったりしないって」


「今日だけはご容赦を」



テラがぴしゃりと言うので、ラスタはとうとう根負けし、肩をすくめて頷いた。

次いで、レティアの寝室の入り口から室内を覗く。

霧の奥にいるはずのレティアは見えなかったが、ラスタは満足そうに拳を握った。



「変わった……いや、変えたんだな、レティアが」


「レティア様が、変えた?」


「俺たちのやり方のままで、レティアを守ろうとしてたらさ、きっとこうはならなかった」


「……それは、そうかもしれません」


「レティアが俺たちを気遣って床で寝たりしたから、みんなが動いて、この部屋を変えたんだ。小さなことでも変えようとする力とか気持ちがさ、こうやって繋がって、でっかくなるんだ。なんか、それってさ。すごいことだよな」



ラスタが熱を込めて言う。

ホミンがその熱を受け、大きく頷いた。


小さくても、大きくても、変えたいという想いが、何かを変える力になる。

その想いを抱く者が誰であろうと、関係はない。

共に考え、繋ぎ、育てていく。

育って実ったものがすごいならば、そのきっかけの種も、同じくらいにすごいのだ。



「純真なレティア様の想いが、このベル・ザラムを潤していくのですね」



アルトが微笑む。

レティアの寝室にある、側溝から流れでる水。

それはすべて貯水槽へと送られる。

少しずつでも、砂漠に命の種が撒かれていく。


水氷の祝福の力だけではない。レティアの優しさも乗せて。

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