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水氷の行方 ~氷の呪いを受けし奴隷少女、売られた先で大切にされ、砂漠の国を救う~  作者: 遠野月
歩み寄る

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16/18

善処


朝。

必ず一度、申し訳ない気持ちになる。

寝室のベッドの綿が、必ず潰れてしまうからだ。



「……あ、あの、今夜から床で寝ても、いいですか」



レティアの言葉に、侍女たちの顔が硬直した。

すぐさま、アルトとテラが首を横に振る。



「レティア様、何もお気に病むことはありません」


「で、でも」


「ご覧ください、レティア様。さほど手間ではないのですよ」



アルトに促され、レティアは窓の外へ目を向ける。

寝室の外にあるテラスで、ホミンが寝具の綿を打ち直していた。

最初の頃はたしかに大変そうにしていたが、最近は手慣れて、作業が早い。

しかも、毎日綿を打ち直すように想定した作りの寝具へ変えている。


とはいえ本来なら、このような手間などないはずだ。

この呪いがなければ、彼女たちの仕事はもっと楽なはずだった。


そしてついに、レティアは床で寝はじめた。

どこで眠っても、すぐに凍って硬くなるのだから、寝心地は変わらない。

もちろんベッドのほうが、眠りにつく直前までわずかに柔らかさを感じられる。

その柔らかさに宿る優しさも、心地よいものだった。



(……でも、ここだって)



寝室の床は、さほど悪くない。

見世物小屋の牢屋に比べれば、凹凸はなく、なにより綺麗だ。

テラが毎日用意してくれる香油から溢れる花の香りも、心地よい眠りへ導いてくれる。

十分すぎるほどに十分だと、レティアは思っていた。


しかし二日もしないうちに、綿の打ち直しを担当していたホミンが泣きだした。

レティアの気遣いに泣き、己の不甲斐なさにも泣いた。

アルトとテラも同様に、己の不甲斐なさを詫びようとした。

しかし、それをラスタが止めた。



「それって、違うんじゃないかな」



ラスタが首を傾げながら言う。

するとテラが顔をしかめて、ラスタへ詰め寄った。



「私たちの働きが悪いから、レティア様が困っているのですよ?」


「いや、十分にやってるじゃんか。そんなこと、誰が見ても分かるって」


「ですが」


「十分にやっていて、これ以上困らせたくないって思ったから、レティアは床で寝たんだろ?」


「そのようなことをさせてはいけないのです」


「いや、それは、そうなんだけどさ。だけど、レティアの気持ちはどうすんの?」



ラスタがテラへ詰め寄り返す。

テラは、ハッとして俯いた。


レティアのために善処を尽くしたい。

それは良い行いだろう。

しかし、自分が善いと思っても、相手が拒む場合もある。

それでも押し付けるのは、良い行いとは言い切れない。



「レティアだって、考えてるんだ。それを無視するのは良くないだろ?」


「では、どうすれば……」


「俺たちも考えるんだ。今まで通りじゃダメって分かったんだから、変えようぜ」


「……変える、ですか」


「あんなに小さなレティアが変わろうとしてんだ。大の大人の俺たちが変わらないのは図々しいだろ?」



そう言ったラスタが、胸を張る。

直後、ラスタの後ろに現れた人影が、ラスタの頭をゴツリと叩いた。

グイラムだった。

彼はラスタに、「レティア様と呼ぶように」と告げ、再びラスタの頭を叩いた。

次いで、侍女たちに笑顔を向ける。



「大馬鹿者のラスタだが、至極まともなことを言った。ぜひ、知恵を振り絞り合おうではないか」


「グイラム様も」


「もちろんだ。私から王陛下に話し、王宮の賢人たちにも声をかけよう」



グイラムが力強く頷く。

その頼もしさに、アルトとテラが同調し、拳を握る。

頭を抱えていたラスタと、涙をこぼしていたホミンも、レティアのために気を取り直した。

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