善処
朝。
必ず一度、申し訳ない気持ちになる。
寝室のベッドの綿が、必ず潰れてしまうからだ。
「……あ、あの、今夜から床で寝ても、いいですか」
レティアの言葉に、侍女たちの顔が硬直した。
すぐさま、アルトとテラが首を横に振る。
「レティア様、何もお気に病むことはありません」
「で、でも」
「ご覧ください、レティア様。さほど手間ではないのですよ」
アルトに促され、レティアは窓の外へ目を向ける。
寝室の外にあるテラスで、ホミンが寝具の綿を打ち直していた。
最初の頃はたしかに大変そうにしていたが、最近は手慣れて、作業が早い。
しかも、毎日綿を打ち直すように想定した作りの寝具へ変えている。
とはいえ本来なら、このような手間などないはずだ。
この呪いがなければ、彼女たちの仕事はもっと楽なはずだった。
そしてついに、レティアは床で寝はじめた。
どこで眠っても、すぐに凍って硬くなるのだから、寝心地は変わらない。
もちろんベッドのほうが、眠りにつく直前までわずかに柔らかさを感じられる。
その柔らかさに宿る優しさも、心地よいものだった。
(……でも、ここだって)
寝室の床は、さほど悪くない。
見世物小屋の牢屋に比べれば、凹凸はなく、なにより綺麗だ。
テラが毎日用意してくれる香油から溢れる花の香りも、心地よい眠りへ導いてくれる。
十分すぎるほどに十分だと、レティアは思っていた。
しかし二日もしないうちに、綿の打ち直しを担当していたホミンが泣きだした。
レティアの気遣いに泣き、己の不甲斐なさにも泣いた。
アルトとテラも同様に、己の不甲斐なさを詫びようとした。
しかし、それをラスタが止めた。
「それって、違うんじゃないかな」
ラスタが首を傾げながら言う。
するとテラが顔をしかめて、ラスタへ詰め寄った。
「私たちの働きが悪いから、レティア様が困っているのですよ?」
「いや、十分にやってるじゃんか。そんなこと、誰が見ても分かるって」
「ですが」
「十分にやっていて、これ以上困らせたくないって思ったから、レティアは床で寝たんだろ?」
「そのようなことをさせてはいけないのです」
「いや、それは、そうなんだけどさ。だけど、レティアの気持ちはどうすんの?」
ラスタがテラへ詰め寄り返す。
テラは、ハッとして俯いた。
レティアのために善処を尽くしたい。
それは良い行いだろう。
しかし、自分が善いと思っても、相手が拒む場合もある。
それでも押し付けるのは、良い行いとは言い切れない。
「レティアだって、考えてるんだ。それを無視するのは良くないだろ?」
「では、どうすれば……」
「俺たちも考えるんだ。今まで通りじゃダメって分かったんだから、変えようぜ」
「……変える、ですか」
「あんなに小さなレティアが変わろうとしてんだ。大の大人の俺たちが変わらないのは図々しいだろ?」
そう言ったラスタが、胸を張る。
直後、ラスタの後ろに現れた人影が、ラスタの頭をゴツリと叩いた。
グイラムだった。
彼はラスタに、「レティア様と呼ぶように」と告げ、再びラスタの頭を叩いた。
次いで、侍女たちに笑顔を向ける。
「大馬鹿者のラスタだが、至極まともなことを言った。ぜひ、知恵を振り絞り合おうではないか」
「グイラム様も」
「もちろんだ。私から王陛下に話し、王宮の賢人たちにも声をかけよう」
グイラムが力強く頷く。
その頼もしさに、アルトとテラが同調し、拳を握る。
頭を抱えていたラスタと、涙をこぼしていたホミンも、レティアのために気を取り直した。




