過分
「王陛下がお越しです」
テラの声に、レティアは我に返った。
顔を上げると、すでに扉は開かれていて、王様がこちらを覗き込んでいた。
「入っても?」と、伺うように言うので、レティアはすぐさま頷く。
王様の後ろにはグイラムもいて、レティアの顔を見るや、優しい笑顔を見せてくれた。
「不便はないかな? レティア嬢」
「……な、なにも。す、すごく、良くし過ぎて、もらって」
「良くし過ぎている?」
王様が首を傾げ、アルトに向いた。
アルトは静かに、首を横に振る。
すると王様が、ほっとした表情を浮かべた。
「レティア嬢、我らには、そなたから受けた恩を返しきることはできないのだ。はじめて会った時から、これまで。そして、これからも」
「……そ、そんな、こと」
「ありがとう、レティア嬢。そなたは本当に優しく、貴い子だ。そなたの声を聞いていると、温まる気がする」
王様がにこりと微笑んだ。
しかし、その息は白い。
レティアの冷気に触れ、顔も少し青白くなりつつある。
それを見てレティアは恐れ入り、小さく俯いた。
それからしばらく、王様とグイラムが感謝の言葉を伝えてくれた。
けれどその言葉は、まるで霞がかかったように聞こえた。
レティアもまた、彼らに感謝の言葉を返す。
だが、足りない気がした。
むしろ、感謝の言葉を返すほどに、申し訳ない思いが募る。
(……このままで、いいわけ、ない)
王様たちが感謝しているのは、レティアから生まれる氷に対してのはずだ。
その氷は、相変わらず勝手に出て、貯水槽へ運ばれていく。
それは、レティアの想いと関係ない。
自らそうしたいと願ってのことではない。
その想いとは裏腹に、周囲の状況はさらに改善していった。
王様がレティアの部屋を数度訪ねたことで、貴族たちも訪ねてくるようになったからだ。
彼らに対しても、レティアは出来るかぎり感謝の言葉を伝えた。
その純真さに触れ、貴族たちはレティアを敬うようになっていった。
「なのに、レティアのやつ、あんまり元気ないな。どうしたんだ……?」
表情を暗くしていくレティアに、ラスタもまた暗い声をこぼす。
ラスタに同調するように、ホミンもがくりと項垂れた。
しかしアルトとテラが、ふたりの背を叩く。
「ですが、私たちが暗くなってどうします。しっかりしなさい」
アルトの言葉に、ふたりが顔を上げる。
気を取り直したラスタが、自らの頬をぴしゃりと叩き、にかりと笑った。
次いで、ホミンと顔を見合わせる。
「そうだよな。俺たちがレティアの笑顔を作るんだ!」
「はい!」
想いを新たにして、四人がこぶしを握る。
その熱が、少しでもレティアの氷を溶かすことを信じて。




