喪失の女騎士
「我々が追い出されずに済む、唯一の楽園は ”思い出”である。」
ジャン・パウル
必要だった日用品は大体買えた
あとは、この女商人との会話を如何にして切り上げるか…
「毎度アリー!またよろしくね~、虚空爺さんは?大先生は元気かいー?」
この静かで寂しい場所には似つかわしくない、声量と態度だ。
「師匠なら、いつもの場所かな? また石を拾ってるよ」
「さすが、先生~立派だねぇ!あんたもしっかりお手伝いして学ばないとダメだよ!少年!ンハハハハハ☆」
ああ、うるさい…
外からの来訪者が少ないここでは、行商人の彼女との交流は貴重な刺激になるのだが
彼女はボクには陽気過ぎる…
「いつも最低限な日用品ばっかりだけどさ~!娯楽も大事だよ~? 酒とかタバコ、カードとかもいらない??」
「爺さんが使って良い分のお金はしっかり管理して渡してるから…必要な分ピッタリしかないんだ。」
僕が買い物する為のお金は、師匠が用意した缶の入れ物に入っていた
どこからお金を稼いでいるのかわからないが
師匠はここで生きるのに、充分な蓄えは持っているようだった。
というか、こんな場所でもお金が必要とは
宝石のようなキラキラした石が、そこら中に転がっているというのに
なんとも世知辛いことだ
それとも、貨幣とは違う意味が ここではあるのだろうか?
・・・・・信じられない
ボクはもう帰ってくれ、という空気を出しながら、会話の返事もしていないのに
あれから2時間彼女は ほぼ一人で、しゃべり続けている…
「でさー、あたしは言ってやった訳!そこは、右回りのネズミじゃなく、左回りのトカゲでしょ!ってね!!」
なんの話をしてるのか、サッパリわからない…
行商なんだから、次にまわる場所があるんじゃないのか?
「そういえば、あの白い騎士さん またあの場所に居たよ」
「ああ、あの女騎士さん・・・元気そうでした?」
この地域にある、いくつかの湖?というか池といえばいいのか
そのひとつに、佇む騎士が居た
いつ頃からかはわからない、ある日突然現れた
まあ、ここでは良くある事ではある。
「元気ではないね、幽霊一歩手前だよ 私が話しかけても全く無反応~ 飯食べてんのかね~??」
「あの人は、一種の思念体のようなモノだって師匠が だから、食事を摂らなくても飢えはしないって…」
白銀の結晶石が水底から、いくつも突き出した、その美しい池のほとりで
何かを見つめる美しき女騎士…
師匠は、今はまだ様子を見ようと言っていたけれども
「ん?何をしてるの??」
「さっき、米も買ったんで、おにぎりでも作って、その人に持って行こうかと…」
米を袋からだし、水で研ぎ始める
「さっき、食べる必要ないって言ってたじゃん、しかもアンタおにぎりとか知ってるんだ。 へ~西洋の文化圏出身とばかり思ってたよ」
確かに、自分がなぜ おにぎりを作ろうと思ったのか、その作り方を知っているかは謎だ
また、セーブの光に中てられたのだろう
しかし、おにぎりは 爺さんも時々作ってくれた。
「食べる必要はないけど、食べられない訳じゃないはずだから…まあ、食べてはくれないと思うけど」
「ふーん、いいね アタシも手伝うよ!」
おにぎりを作る間は、その行商人は静かになっていた……。