修理屋の一日
「忘れられる恐怖がある、忘れてしまう幸福がある。」
掃除をして、薪割りをして、道具の手入れをして、空を眺める
これでボクの一日はほとんど終わる。
どこもそうだろうが
弟子や、助手なんてモノは師匠の為の雑用をする為に存在している。
ボクなんかは良い方だろうが、仕事に関係のない身の回りの世話を修行と称して10年20年
やらされる場合だってある
”無意味”なんて事はないんだろうが どうせなら早く仕事を覚えたいのが、みんなの本音だろう
ここの夕方は、本当に美しい
あらゆる世界の黄昏時は、幻想的な雰囲気になるが
ここは格別
何せ、幻想的ではなく、”幻想”そのものなんだから…
その瞬間、空が血のように赤いかと思ったら
次の瞬間、紫がかった青に
それが宝石の湖に溶けて、空の星と共鳴して光り出す
そして、ここからは 空の星々が近づいたり離れたり、本当に手を伸ばせば届くほどのところにあるのだ
大きなはずの星が、小さく見える
矛盾した表現だが、そんな感じだ
本当に星なんだろうか?
本物の星なら、こんな現象は起きないはずだ…
オレンジの光、緑が交じり、星々が煌めき、湖が鳴いている。
あんな光景を見てたら、湖の中に入って
溺れてもいいから、触れてみたくなる。
焚き火をする。
炎もまた見ていて不思議な気持ちになるモノの一つだ
ここには電気がないので、夜は本当に暗い
宝石の川に行けば別だが
ん?電気なんて、自分が居た世界にもあっただろうか…??
「ここでは、他人の記憶にすぐ充てられる…特にワシたちの仕事はその極みじゃ…」
師匠と料理をつつきながら話す
話し相手は、この爺さんだけ 寂しさが 独りの時より増すのは気のせいだろうか?
そして、ジジイの料理は信じられない程、不味い
ここの食材のせいなのだろうか?
いや、そんなはずはない。
つまらない話は我慢できても、マズイ料理だけは我慢出来なかった
楽しみといったら、食事くらいなのに
腹を満たす度に幸福度をゴリゴリ削られるのを感じた
師匠は黙って食べている、舌が石化してしまっているんだろうか??
食ったら、寝る
非常にシンプルだ。
師匠の作業部屋からは、修理中の記憶の欠片たちの光が漏れてくる
青や、緑系が多いだろうか
とても落ち着く光だ
そして、その光の影響だろうが
ここで眠ると、とても壮大な夢を見る…。
朝、起きて
また薪を割る。
「おはよー! よっ新人 しっかりやってるー??」
騒がしい女が来た
今日の仕事は進まなそうだ…。