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剣(2023/06/08 改編)

エメラルデラとオラトリオが狩りから帰ってきた時、一番最初に棲家から飛び出してきたのは、エウリカだった。


「お帰りなさい!エメラルデラ」

「ルデラ…おかえり」


抱きついてくるエウリカの身体をエメラルデラが受け止めると、細い両手がぎゅぅ、としがみついてくる。

少し遅れてきたルルが小さな身体全体を押し付けるようにして、脚に抱きついてきた。

一緒に駆けてきたシグは獲物へと一直線に向かっていくと、興奮しきった様子でアカシカの周囲を跳ね回る。


「すっげぇ!こんなでっっかいの、初めてみた!!すっげぇぇえ!!」


「そうだろう。オラトリオが獲ってきてくれたんだ」


「ほんとかよ!?オラトリオ兄ちゃんってすげぇんだな!!なあ、どうやったんだ?俺もできる?」


思わずエメラルドがおかしそうに笑って言葉を添えると、シグは尊敬と憧憬できらきらと輝く瞳をオラトリオへ向けた。

オラトリオを質問責めにしようとするシグを、後からやって来たユリウスが頭へと掌を添えて止める。

不満そうではあるが、それでも大人しく引っ込んでみせた弟の頭をユリウスは優しく撫でた。


「ありがとう、二人とも。これは…本当に貰って良いのかな?」


「ああ。構わん。それで冬に備えてくれ」


ユリウスの問い掛けにオラトリオが鷹揚に頷いて見せると、ユリウスの横からルサが顔を覗かせた。


「あとの解体は私に任せてね!」


ルサが腕捲りをして力こぶを作って見せると、快活に笑う。

向日葵が咲くような妹の笑顔は、いつまで経っても愛らし少女のままだ。

エメラルデラとオラトリオが狩りに出るのと入れ違いで戻ってきていたアガサは、テオドールと一緒に後ろから家族の姿を見守っていた。


エメラルデラが周囲を見渡すと、全員の顔から冬への恐怖が拭い去られている。

これならばもう、厳冬のせいで家族が欠けることはないだろう。

そう確信できると、エメラルデラはテオドールへと視線を向けた。


「父さん、皆。私はそろそろ聖地に戻るよ、ここに留まると他の竜騎が来るかも知れない」


驚いたように見上げてくるエウリカの紺碧の瞳。

一緒に居られると思っていたのだろう、ルルは泣き出しそうに顔を歪めていた。


「いっちゃやだ…ルデラぁ」


「ごめんね、ルル。私はとても弱くなってしまったから、強くなるために戻らないといけないんだ。でもまた、絶対に遊びに来るから」


エメラルデラはしゃがみ込んでルルとエウリカに視線を合わせてると、両腕で優しく抱き締める。

数ヶ月前の出立と比べれば、どれだけ明るく前向きな別れであろうか。

二人にもそれが分かるのだろう、幼い姉妹は啜り上げるようにして涙を堪えると一度エメラルデラを強く抱き締めてから、腕を離していった。

シグは何も言わないかわりに、つまらなそうな顔をして拗ねたように唇を尖らせている。

そんなシグの頭にオラトリオの手が伸びると、黒く硬い髪をくしゃくしゃと撫でた。

シグが首を竦めながら見上げると、オラトリオの双眸は優しく細められていた。


「俺もエメラルドも戻ってくる。そうしたら、俺の狩りのやり方を見せよう。それまで、待てるか?」


「っ…本当かよ!待ってるから、ぜったい、ぜっっったい約束だからな!!」


ぐんぐんと膨らんでいく期待に、嬉しそうに歯列を覗かせてて笑うシグが拳をオラトリオに突き出すと、おらとは一瞬戸惑ってから自分の拳をシグに軽く打ち合わせる。


「ああ、男同士の約束だ」


気を持ち直した子供達を眺めていたエメラルドが立ち上がろうとすると、上から大きな影が落ちてくる。

エメラルデラが見上げた先には、養父であるテオドールが立っていた。


「エメラルデラ、これを持って行け。お前が自分の道を決めた時に渡すべきだったが…どうしても、難しくてな」


テオドールは腰に佩いていた剣を剣吊りのベルトごと外し、エメラルデラへと差し出した。

ロングソードよりやや短いそれは、養父が何より大切にしていたものだ。

滅多なことでは抜かれることがなかった美しい刃に幼い頃から憧れてはいたが、いざ差し出されると戸惑いの方が大きくなる。

エメラルデラは躊躇してテオドールの顔を見ると、そこには力強い笑みと強い決意が宿っていた。


エメラルドは立ち上がり、父親を真っ直ぐに見詰める。養父の決意の意味は分からなかった。

だが、巣立ちという節目に贈るほど重要な剣なのだろう。

エメラルデラは一つ深く呼吸をしてから、意を決して両手を伸ばし剣を受け取った。

ずっしりとした重さは、不思議と手に馴染む。


「…、…ありがとう、父さん。大切にする…」


噛み締めるように呟くと、エメラルデラは艶やかな黒い鞘の表面を静かに撫でる。

頑丈で滑らかな鹿革の吊りベルトを腰に通して携えれば、失くしていた自分の部品が一つ、戻ってきたような安心感を覚えた。


「…よし、じゃあよ、全員でエメラルデラを見送りに行くぞ。竜になるなら、広ェ場所が必要だろ」


剣の柄頭に手を添えるエメラルデラの姿を見守っていたテオドールが、全員を見回し声を掛ける。

エメラルデラは現実に引き戻されると、オラトリオが姿を変えられる場所に向かって家族と共に歩き出した。


「わたし、竜って近くで初めて見るかも!」

「ルルも…、…おっきいんだよね…?こわいかな…」

「俺はビビったりしねぇし」


子供達はオラトリオとエメラルデラの両隣を陣取り、

口々に言葉を交わして、期待と不安を膨らませていた。年長の弟妹達は前後に分かれて周囲を警戒しながらも、エメラルデラがここに至るまでの話を聞こうと口を開く。


「オラトリオさんに会うまでに、恐ろしいことはなかったかい?」


ユリウスが最初に問い掛けると、エメラルデラは子供達に聞かせた冒険譚とは違う、生々しく危険な旅の話を語っていく。

死にかけた話はぼかし、シエスの正体を黙って語ってみせても、十分に衝撃だったのだろう。やや蒼白になる弟妹達の中から、アガサが口を開いた。


「っ…気を付けろよ…竜がいるっても、流民は危ねぇだろ」


「ああ、十分注意する。ありがとう、アガサ」


言葉は少なかったがアガサがエメラルデラを気遣うと、ユリウスとルサが視線を見交わす。

想いを拗らせた兄弟の様子に心配を募らせていた二人は、人知れずほっと微笑み合うと、先ほどよりも軽い足取りで獣道を歩いていった。


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