竜と流民⑦
オラトリオが洞窟へと踏み入ると、空気の動きで灯された光源で伸びた影が柔らかく壁を撫でた。
細い光に照らされたエメラルデラの膝の上には、ルルの小さな頭が乗せられ、その反対側にはエウリカが旅の話に聞き入っていた。
三人の頬に宿る陰影は灯火に合わせて揺らめき、暖かな光との明暗が、お伽噺のような素朴さをみせていた。
侵しがたい空気に息を潜めていたオラトリオに気付くと、エメラルデラは片手を持ち上げて、彼を招き寄せる。
オラトリオはルルを起こさないように足音を潜めて近づくと、エメラルデラの側で胡座を組んで座り、壁に寄り掛かった。
ルルとエウリカに挟まれて微笑むエメラルデラを見下ろすと、柔らかな声で語られる物語が、鼓膜から身体の内へと優しく沁みていく。
物語を聞いている内に、オラトリオの意識は徐々にほぐれていき、目蓋はいつの間にか伏せられていった。
意識を手放したオラトリオが次に目を覚ましたのは、片付けを終えて戻ってきたテオドールに起こされた時だ。
「ちッたぁ寝たか?」
「ああ、ありがとう…よく眠れた」
低く潜められた声に目蓋を押し上げると、最初に目に入ったのは、エメラルデラの穏やかな寝顔だ。
疲れていたのであろう、子供達と一緒に無防備な顔を見せる姿に、オラトリオの声も自然と低められる。
オラトリオは胡座のままだった脚を崩して立ち上がり、足音を押し殺してテオドールと入れ替わりに外へと出ていく。
夜営のために焚き火の前に、誰かが準備してくれたのであろう鹿の毛皮が敷かれていた。
そこに座すると、オラトリオはまんじりともせずに、周囲に意識を張り巡らせ続ける。
小さな獣の足音が遠くで聞こえ、様子を伺う二つの目は銀色に輝き、林の間からこちらを覗く。
オラトリオが意識を向けると、小さな生き物たちは我先にとその場を離れていった。
危険な獣の気配もなく、ただ静かに夜が更けていこうとしていた。
しかし、その静寂は不意に響いた鋭い声に切り裂かれる。
「おい、てめぇ」
オラトリオが振り返ると、そこには若く、猛々しい男が一人立っている。
「────……いい加減話をつけようぜ」
そう告げた男───アガサの鈍色の双眸が、オラトリオをまっすぐに睨み据ていた。




