竜と流民⑥(2023/10/25 改編)
エメラルデラの帰還と収穫を祝っての宴は、子供達が眠そうに目を擦り出すと共に、終わりを迎えた。
「まだ…起きてる…まだねむくない…」
「はいはい、分かったから行くよ。明日も猟があるからね」
欠伸混じりに訴えてくるシグを両腕に抱きかかえ、ユリウスは棲家の中へと入っていく。エメラルデラはエウリカと手を繋ぎ、もう片腕には眠りこけてしまったルルを優しく抱いていた。
「エメラルデラと寝るの、久しぶりだね。寝る前にね、旅の話、聞かせて」
「ああ、もちろん」
ルルを起こさないように声を潜めてねだるエウリカに、エメラルデラは目許を優しく緩めて微笑んだ。
嬉しさを堪えきれずエウリカは小さく飛び跳ねると、エメラルデラの手を引いて洞窟の中へと入っていく。
エメラルデラの姿が見えなくなるまで見守っていたオラトリオは、今夜の寝ずの番をどうするか相談するテオドールとアガサの方を、振り返った。
「今夜は俺が夜の番をしよう」
「そりゃ有難ェが、良いのか?」
オラトリオの申し出を受け入れようとするテオドールと相対して、アガサは嫌そうに顔を歪めた。
「親父、止めろよ。こいつは竜で、家族じゃねぇ」
アガサの鈍色の双眸が鋭さを増す。
そこに宿るのは不信と、嫉妬、拒絶と畏れ。あらゆる感情を混ぜ合わせたものだった。
「アガサ、お前は少し落ち着け。エメラルデラが信じられねェのか」
「っ…、…くそ、勝手にしろよ!」
テオドールの低い声が、息子を諌める。
エメラルデラの名前を聞くとアガサは眼差しを揺らし、何の反論もできないまま悔しげに言葉を吐き捨てた。
そのまま荒々しく地面を蹴って踵を返すと、宴会の後始末をするルサの元へと向かっていく。
僅かに丸められるアガサの背中には、怒っているのか、落ち込んでいるのか、どちらとも言い難い重さがのし掛かっていた。
感情に振り回されている息子の姿に、テオドールは短く苅り込んだ後ろ頭を乱暴に掻いた。
「悪いな。アイツも、頭じゃ分かってるとは思うんだがよ…」
「いや、良い。割り切れない事があるのは当たり前だ…それだけ、エメラルデラを大切に想ってきたのだろう」
オラトリオはアサガからテオドールへと視線を向ける。
金色の睫毛に縁取られた輪郭が柔らかく撓らせて微笑むオラトリオの姿は、今日初めて見た時よりも随分と大人びて見えた。
世界を知り、人に触れたオラトリオの成長の一端を垣間見たテオドールは、驚きに瞠目したあとで心底からの安堵を覗かせる。
それから磊落な笑みを浮かべたテオドールは、オラトリオの肩を力強く叩いた。
「そう言ってくれるなら、助かるぜ。これからもエメラルデラを大切にしてやってくれ。アイツは抱えてるモンが多すぎる」
「ああ、何よりも大切にすると誓おう。だから、どうか安心してくれ」
テオドールを見下ろすオラトリオの視線には、相手を慮る温もりが含まれていた。
それが、どんなにかテオドールを安心させただろうか。
「ああ…ありがとうな」
テオドールは眥に深い皺を刻むようにして笑うと、もう一度オラトリオの肩を強く叩いて、洞窟の方を向かせた。
「よし、夜の見張りをするなら片付けは良いからよ、先にちッと寝とけ。竜だからって無理をするもんじゃねェ」
テオドールに促されるまま歩き出すと、宴会の片付けをするルサが、オラトリオへと大きく手を振った。
そばかすの散りばめられた顔に笑顔が広がっていくと、ルサの健康的な頬はつやつやと輝いて、朗らかな心根を滲ませる。
「オラトリオさん、こっちは気にせずゆっくり休んで。すっごく頼りにしてるからね!」
「ああ、任せてくれ」
ルサの力強い声は、どことなくエメラルデラを思い起こさせる。
血の繋がりはなくても、間違いなく番いの妹なのだと実感すると、自然とオラトリオの表情が和らいだ。




