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竜と流民④

オラトリオの揺れる瞳に映り込むエメラルデラは、この上なく優しく微笑みを湛えると、掌をオラトリオの背にそっと添える。


「礼を受け取ってくれ。皆、本当に君に助けられたんだ…勿論、私も。出逢った時から私を…家族を救ってくれて、ありがとう」


触れた場所から伝わる温もりが、言葉以上に雄弁にエメラルデラの感情を伝えてくれていた。

人の感謝を素直に受け取るのは、勇気と自信が必要だ。

相手の気持ちを背負う勇気。

応える勇気。

そして、それだけの価値が自分にあるという信じられる、自信。

背中に触れるエメラルデラの掌がオラトリオの勇気をそっと支え、自信を与えてくれる。


「…、…そうか…いや、…なら、良かった。俺は役に立てたんだな」


途切れ途切れに言葉を紡いでくと、胸にともった灯火のようは温かさはじんわりと広がり、全身を満たしていった。

これが人に受け入れらるということなんだろうと、オラトリオは漠然と理解した。

歯列合わせて、照れ臭さそうに笑うオラトリオの血の通った表情は、今までになく幼く、そして美しかった。


「やだぁ、美形ってすごいのねぇ。どきどきしちゃった」


両手を火照った頬に添えてオラトリオを見詰めるルサの肩に、ユリウスの手がそっと添えられる。


「彼はエメラルデラのだからね、ルサは僕にしておきなよ」


さらりと告げられた告白に、ぱちくりとルサのつぶらな瞳が瞬いたかと思うと、ユリウスの背中を勢い良く叩く。


「んもお、なに言ってるの!ユリウスったら冗談ばっかり言って」

「あはは…、…そう、冗談だよ、ジョウダン」


叩かれる勢いに揺られながら、ユリウスは遠くを見つめた。

その情けなく乾いたは笑い声と煤けた具合が、オラトリオには自分の姿と重なって見える。

急速に親近感を覚えると、オラトリオはユリウスの正面まで歩み寄り、力強く肩に触れた。


「お前も苦労するな」

「オラトリオさんも…エメラルデラは鈍感だからね」

 

妙な連帯感を深めている、男二人の目を醒まさせるべく、テオドールは厚みのある掌を一度、二度と叩いて声を張り上げた。


「ほら、お前ら。もう良いから祝いの準備をするぞ!今日はエメラルデラが無事に帰ってきたし、十分な供えもある。多少は贅沢しねェとな」


途端に上がる子供達の歓声。

ルサが跳ねるように立ち上がると、嬉しそうに両手の指を組み合わせる。


「うふふ、じゃあ今日は特別なお肉を使っちゃおう!塩漬け肉に、ペミカンも食べよう」

「手伝うよ、オラトリオさんはエメラルデラと一緒に待ってて」


いの一番に洞窟の奥の冷暗所に保管された食料を確かめにいくルサの後を、立ち直ったユリウスが声を掛けて追い掛けていった。


「本当に手伝わなくて良いのか?」


戸惑うエメラルデラとオラトリオの手を、年少の子供たち三人がそれぞれに掴むと、毛皮の敷かれた方へと押しやっていく。


「エメラルデラと竜の兄ちゃんは休んでろよ!」


竜とその番いは子供たちに促されるままに靴を脱ぎ、毛皮の上に腰を下ろした。

最年少のルルは敷物の上に乗ると、四つん這いになりながら、更に先へと進んでいく。

向かう先は、殴られた痛みからようやく回復したアガサの元だ。


「アガサ…ルル、やいたリンゴつくってほしいの」


胡座をかいたまま頑として動こうしないアガサの足を、ルルの小さな手のひらが叩く。

無視を決め込むアガサであったが、幼い手で幾度も優しく訴えかけられると、どうにも無視し難くなってくるのであろう。

結局、最後には根負けして重たい腰を上げることになった。


「しゃあねぇな…」


アガサは狼の毛皮に似た灰色の髪を乱雑に掻きながら立ち上がると、エメラルデラの横を通り抜けて革のブーツに足を差し入れ、歩き出す。

その後を残りの子供達とテオドールが追い掛けて、外に出て行った。

洞窟の奥にいたルサとユリウスの二人が選んだ食材を両手に抱えて戻ってくると、ユリウスの青灰色のたれ目がちな瞳が穏やかに細められる。


「出来たら呼ぶから、楽しみにしててね!」


ルサは歯を覗かせて元気に笑うと、子供達が落とした茸や木の実をオラトリオの腕から回収し、ユリウスと共に外へと消えていった。


「ありがとう、何か手伝えることがあれば言ってくれ」


二人の背中を追うように掛けた声が消えていった後は、エメラルデラとオラトリオだけが洞窟の中に残される。

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