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空を駆ける

大地を揺るがす振動と共に、竜に変じたオラトリオが歩いていく。

踏み出す一歩一歩の歩幅は広く、広大に思えた神樹の枝葉の終わりまで程なくして行き着いた。

神樹が落とす影の下には草原が広がっているのに対し、その先には小石や雑草、木々が繁っている。

不自然なまでに明瞭な境を前にして、エメラルデラは聖地の奇跡を見るような思いだった。

追走してきたヘルメティアは聖地の境で佇む二人に向かって、声を張り上げる。


「あたしたちは離れるから、飛んでご覧なさい。オラトリオ、急に動くとエメラルデラが落ちるからね、命令されても少しずつ羽ばたいて飛ぶのよ。分かった?」


『承知した』


追い付いてきたシエスの手を握るとヘルメティアは距離を取る。

シエスとヘルメティアが立ち止まるのを目に止めてから、エメラルデラは軽くオラトリオの首を叩いた。


「飛んでくれ、オラトリオ」


『ああ、お前の望むままに』


大地を覆うような黄金の翼がゆっくりと羽ばたく。風が立ち、逆巻き、神樹の枝葉が揺れて激しくざわめいた。

竜の巨躯を支える足が力強く大地を蹴りながら、聖地との境を目指す。そして、境界の越えた瞬間、飛び立った。

凄まじい勢いで風が頬を叩くが、息苦しさはない。景色が飛ぶように過ぎていく。

時間さえ越えてしまいそう速さだった。


「っ…─────」


上昇していく空気を翼に受ければ一層高く舞い上がり、一筋の雷光のように空へと昇っていく。

わだかまる雲を突き抜けると、一瞬頬を打つ冷たさが、心地よい。


一気に開ける視界。


白雲を散らし、その先には広大な世界が見えた。

陽光は遮るもの一つなく、眩く二人を照らし出している。

エメラルデラは日射しを遮るために片手を翳した。

眼下には世界の中心に聳え立つ神樹がまるで、大地を覆う屋根のようにその枝葉を広げている。

街道は聖地を囲むように迂回路を描きながら、南北に走っていた。

行き来する荷馬車や馬が、豆粒よりも小さく見える。

北の果てにあるのは峻厳な山岳を背にする帝国、南の果てには広い海洋を要するに神国がある。

だが、エメラルデラとオラトリオの視界ではまだその姿を伺い知れない。

見渡す世界の遠くで、雨雲から切り離された雨が虹を生み出している。その奇跡のような瞬間が二人の目に映り込んだ。


「凄い…、…」


人々の営みと、自然が一刻一刻、刻みつける幽玄な光景にエメラルデラは人知れず、息を飲んだ。

感嘆の吐息をこぼしてからしばらく、深々と降り積もるような沈黙が二人を包む。

いつまでも続くように思えた静けさを最初に崩したのは、オラトリオだった。


『エメラルデラの家族は、どの辺りに居るんだ?』


「聖地から東にいった先だ。聖地に繋がる谷間を行って、更に先の山岳にいるはずだ」


エメラルデラは指先を差し向けて、東の山岳を示した。

遠くに霞んで見える山を目にすると、家族の事がどうしようもなく、懐かしくなる。

エメラルデラは思わず、胸を搔き握った。


『よし、では行こうか』


「え…?」


エメラルデラの口から間抜けな声がこぼれた。

僅かに顔を巡らせてこちらを振り返るオラトリオの眸が、優しく細められる。


『家族に一刻も早く、会いたいのだろう?』


「…ああ」


取り繕いようもない願いが、エメラルデラの口から零れた。


『では、命じてくれ。連れて行ってくれと』


力強く笑ってくれる竜の眼差しが、なんて心強いことか。

エメラルデラは突き動かされるまま素直に、声を発する。


「オラトリオ、私を家族の元に連れていってくれ!」


『勿論だ、エメラルデラ』


オラトリオが聖地へと顔を差し向けると、一度急速に落下していく。

内臓が浮き上がるような浮遊感。

初めての感覚に息を止めながらも、エメラルデラは叫ぶようなことはなかった。オラトリオへの信頼が、支えてくれているのだ。

聖地の枝葉の高さに差し掛かる直前で滑空するように角度を変え、聖地の周囲を旋回していく。

こちらを見上げるヘルメティアとシエスの姿が目に止まると、エメラルデラは胸一杯に息を吸い込んで、声を張り上げた。


「ヘルメティア、シエス!このまま家族に逢いに行ってくる!ピカイアとオダライアをよろしく頼む!!」


「ちょっと、待って…待ちなさい!!」


ヘルメティアの慌てた叫び声がオラトリオとエメラルデラの背を追っていくが、あっという間に再び空へと舞い上がった二人に、その声は届かずに消えていくのであった。


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