第三の選択
エメラルデラがスープを掻き回しながら再び考え込み始めると、ピカイアが不思議そうに首を傾げて、全員の顔を見回した。
「でしたら、しばらく聖地に留まってはいかがですか?」
エメラルデラは、思わず双眸を瞬かせた。
確かに、主を定めた竜はすぐに聖地を後にしなければならない、そんな制約はないのだ。
流民の誰もが国を欲しているという思い込みが、目を曇らせていたのであろう。
エメラルデラが含んだスープから、今度は滋味と自由が舌の上に広がっていくようだった。
食事の味を決めるのは雰囲気だと、改めて気付かされる。
「それは…、ありなのか?」
「もちろんです!エメラルデラ様はまだお力について、知らないことも多いですし。オラトリオ様もここで学んでいかれるのが良いと思いますよ。その間にどうするか、お決めになれば良いんじゃないでしょうか?」
ピカイアは跳ねるようにして、エメラルデラの目の前に迫ってきた。綺麗な新緑の瞳は、きらきらと輝いて期待に満ちている。
ここに残って欲しい。
言葉にしなくても伝わってくる熱量に、エメラルデラは一瞬だけ気圧される。
しかし、すぐにピカイアの言葉の魅力に引き寄せられていった。
「あら、良いわね。シエスは帝国に戻ってから学んでいたけど、何にも決めてないならここで勉強するのはアリよ。理由があるのに脅迫…なんてことしてきたら、そんな国の誘いは蹴ってやればいいしね」
「まあ…、…そうですね。残るとなると多少厄介なことになるとは思いますが…」
ヘルメティアが賛成とばかりに手を胸の前で合わせ、更にひと押しする一方で、珍しくシエスが歯切れ悪く言葉を濁した。
「厄介なこと…?」
エメラルデラはシエスに問い掛けるが、シエスは匙に口をつけると、スープごと答えを飲み下してしまった。
代わりに透き通るような紅い瞳をエメラルデラに向けると、眦を和ませて微笑んでみせる。
「気にされるほどのことじゃあ、ありませんよ。それより、私も賛成です。もう少しエメラルデラさんとは一緒に居たいですからね」
シエスの声は、しみじみとしたまろい音を含んで、言葉が本心であることを伝えてくる。
全員、エメラルデラが聖地に残ることを望んでいた。
そして、厄介なことが何であるにしろ、エメラルデラ自身もここに居たいというのが本音だった。
「私も…しばらく、ここで過ごしたいと思う。色々と学ばせてくれ、ピカイア。シエスとヘルメティアもよろしく頼む」
「精一杯、務めさせていただきます!」
「もちろんよ、お姉ちゃんに任せない」
ピカイアは両手で拳を握って意気込み、ヘルメティアは自分の胸に手を当て、自信たっぷりに笑っていた。
シエスは静かに一度目蓋を伏せると、無言の了承を示す。
三者三様の返事のあとを追うように、不意に声が響いた。
「残ることが決まったようなら、早速一度訓練といこう」
全員の視線が、そちらへと注がれる。
見つめる先には、先程まで押し黙っていたオラトリオの姿があった。
「何をするんだ?」
代表して口を開いたエメラルデラの言葉に、オラトリオは待ってましたとばかりに笑って見せると、口を開いた。
「もちろん、騎乗訓練だ」
オラトリオはどこか得意げに、堂々と宣言するのだった。




