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帝国と神国①

三人が戻ってくると、エメラルデラの横には当然のようにオラトリオが腰を下ろし、二人の前にピカイアが陣取る。

ヘルメティアの傍らにシエスが寄り添い落ち着くと、ぱんっ!とヘルメティアの手が打ち合わされた。


「じゃあ、みんな揃ったし食事にしましょう!」


号令と同時に、各自が動き出した。


「オラトリオ、スープを渡すから匙を入れてくれ」


「ん、分かった。ピカイア、渡してくれ」


「はい!」


エメラルデラが肉団子のスープを器によそい、受け取ったオラトリオがやや手間取りながら、ピカイアから渡される木の匙を差し込む。


「シエス、そのお肉焦げそうよ!」


「ああ…それはいけませんね」


ヘルメティアがスープの器を受け取ると、各自に手渡し、シエスは串に刺された丸鳥が焦げないように、火から遠ざけていく。

滞りなく各自に器が行き渡ると、ようやく人心地(ひとこごち)といったところだ。

一度場が落ち着くと、シエスとヘルメティアは聖地に食前の祈りを捧げる。エメラルデラは両手を合わせると、ただ押し黙っていた。オラトリオはエメラルデラに倣って、同じように手を合わせてみせる。


「じゃあみんな、食べましょう」


一瞬落ちた祈りのための静謐(せいひつ)は、ヘルメティアの合図と共に賑やかな食卓へと再び早変わりしていく。口々に感想を言い合いながら好きなように料理を口に運んでいく姿が、自然と食欲が掻き立ててくれる。

そんな賑やかしい食事の場に、大きな話題を放り込んだのはシエスだった。


「そういえばエメラルデラさん。これからの予定、考えていらっしゃいます?」


「いや、まったく決めてなかったな」


水を向けられたエメラルデラはあっけらかんと答える。

思わず、シエスは言葉を失った。

本当に何の考えもなく聖地のに来ているとは、思ってもいなかったのだ。

間を空けて、シエスの口から力いっぱいの呆れと妙な関心を含んだ言葉が漏れ出る。


「本っっっ当に、無目的でいらしたんですねぇ」


「竜を見に来る、という目標はあっただろう?」


目的は果たしたと言わんばかりのエメラルデラの声は、以前のよりも力みが抜け、吹き抜ける風に似た自由さがあった。


風に何を言っても仕方ない。


シエスは諦めてもう一度、吐息をこぼす。すると、熱い丸鳥を相手に悪戦苦闘していたオラトリオが、問い掛けてきた。


「俺はエメラルデラが行きたい場所に着いていくだけだが…二人から、助言はないのか?」


唯一、国の事情を知っているシエスとヘルメティアが顔を見合わせると、シエスが先に口を開いた。


「そうですね…私から言えることは、慎重に選んだ方がよろしいのでは?ということでしょうかね」


その言葉を引き取って、ヘルメティアが続ける。


「帝国はね…まあ、良い場所よ。国土は広いし、国内は安定してるし…産業革命が起こって、今まさに黎明期(れいめいき)ってところかしら?」


「そうですね、お陰で人口増加と農地開拓が問題になっていますが…まあ、各貴族で管理していた税率を帝室で定め、農地を皇帝直轄地にしましたからね。地域や気候、人口を考慮して食物の流通量の操作をしているお陰で、干上がることはないでしょう。逆らった貴族は死に目に遭いますが」


ヘルメティアとシエスの話振りからして、治世が安定しているというのは本当なのであろう。

ただ、シエスが帝国を語る声は随分と硬く、紅い眼差しに宿る色は、触れれば凍てつくような温度を孕んでいた。


「まあ、行けば確実に帝室内の勢力争いに巻き込まれますけどね。…あと、絶対に戦争に駆り出されます。帝国は聖地を支配下に置くことを目標としておりますから、これから神国との戦いは激化するでしょうね」


シエスが続けた言葉に、エメラルデラは動きを止めた。ピカイアの口元に運ぼうとしたスープが匙からわずかに、零れる。


「聖地侵攻は、禁忌ではないのか?」


エメラルデラの当然の疑問に、シエスは冷めた眼差しを向けると、全てを見放したような笑い方で微笑んだ。


()()、ではなくあくまでも管理と保護ですね。聖地自体を帝国領にするつもりはないようですが…まあ、詭弁ですよね。最大戦力の竜を自国で押さえて、神国を併呑しようという腹積りでしょう」


シエスは歯列を開くと、肉に齧りつく。

脂と肉汁が、唇の合間から漏れ滴った。

無遠慮に貪る姿は、権力者の生々しさを思わせる。それが悪だとは思わないが、エメラルデラにとって信じられる道なのかは、まだ分からなかった。


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