皇弟の不自由な身の上
シエスの嘆く様子に苦笑しながら、エメラルデラは少し離れた場所で車座になって話す竜の姉弟とピカイアの姿を眺めていた。
会話は聞こえてこないが、時折興奮したように立ち上がるヘルメティアを、ピカイアが懸命に宥める姿が目に入る。
オラトリオは我関せずとばかりに、こちらにばかり視線を向けていた。
当事者であるはずが、すっかり置いてけぼりにを食らっているエメラルデラだ。
しかし、悪い気はしなかった。年長者が弟の世話を焼きたがるのは、よくあることだ。
微笑ましく三人を見つめていると、オラトリオが今にもこちらに戻ってきそうな落ち着きのなさを見せ始める。
来ないようにと払う仕草を見せたあと、ヘルメティアの説教が長引かないように、エメラルデラは意識的に視線を三人から外した。
目を向けた先には、シエスの整った指先が、慣れた調子で鳥に焼き目をつけていく。
滴る脂が反動で落下し炭に触れると、じゅわ…と音が響いた。同時に立ち上る煙には旨味が染み込み、ふくよかな香ばしさが二人の鼻先を擽る。
「シエス、お前…料理なんてできたんだな」
旅の合間、煮炊きの担当はもっぱらヘルメティアとエメラルデラの二人で行っていた。
エメラルデラはシエスに料理ができると思っていなかったし、ヘルメティアも特に何も言っていなかったのだ。
必然的に担当から除外されていたシエスであったが、今の手付きを見る限りでは随分と手慣れているようだった。
「まあ、こうやって焼くぐらいですが…一時期食事全部に毒が入っておりましたので、こうでもしないと生き残れなかったのですよ」
シエスは半月型の細い眉を歪めて、事も無げに笑ってみせる。
それが日常であるかのような、そんな気軽さと、身内の恥を語る面映ゆさがばかりが声に宿っていた。
一瞬だけ瞠目したエメラルデラであったが、彼の言葉に感じたのは同情や哀れみではなく、素直な共感だけだった。
エメラルデラは寛いだ態度を取ると、気安く笑ってみせた。
「…、…帝室も楽じゃないな」
「ええ…でも今は、愛しい人と自由の身ですから」
気の抜けたように笑うシエスの表情は、今までになく穏やだ。
シエスはそのままの調子でのんびりとエメラルデラに顔を向けると、莞爾と微笑む。
「では、そろそろ食事にしましょう。三人を呼んで下さい」
「よし、任せておけ」
反動をつけて軽快に立ち上がったエメラルデラは、熱の落ち着いた鍋の蓋を片手に取り上げると、少し遠くで車座を作って座っている三人と向き直る。
「お前たち、食事だぞ!」
エメラルデラのぴん、と張りのある声が三人に届く。
同時に、蓋と木匙を打ち合わせる牧歌的な音が、大らかに響き渡った。




