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弟という存在(2022/12/10 一部修正)

「────…て、聞いてないでしょ、オラトリオ」


ヘルメティアの言葉に、ようやくオラトリオは意識が引き戻される。

涼やかな黄金色の瞳は一度瞬くと、ヘルメティアへと向けられた。


「うん?」


「うん?じゃないわよ、気をつけないと…嫌われるわよ?」


聞いていたとも聞いていないとも言えない、何とも気抜けたオラトリオの返事にヘルメティアは肩を落とすと、草地の上に胡座をかいて座り込んでいるオラトリオの正面に両膝を揃えて屈み込む。

首を傾げ下から覗き込む姿は、シエスがいれば凄まじい騒ぎようであっただろうが、今目の前にいるのは弟であるオラトリオのみ。姉をも凌駕(りょうが)する美貌の弟は、表情を変えずに断言した。


「そのようなことで、主が俺を嫌いになる筈がない」


「なんでそうなるの…、…」


付き合いも人となりも、一緒に過ごす時間の経過と共に理解が深まり、絆が生まれていくものである。

ならば、オラトリオよりヘルメティアの方がエメラルデラを理解していると言えるだろう。しかし、出逢って早々に叩かれて意識を飛ばすような関係性を築いた弟の方が、エメラルデラを知っていると主張してくるのだ。

ヘルメティアは頭を両手で抱えてしまった。


「あの方は、そういう方だ」


「────…まあ、分からないでもないけどね…いい子だもの、エメラルデラは」


妙な確信を持ったオラトリオの声に、ヘルメティアは思わず視線を上げる。こちらを見つめるオラトリオの真っ直ぐな眸は、エメラルデラへの信頼に満ちていた。

なぜこんなにも、自信を持てるのか。

問いただそうにも、ヘルメティア自身が変に納得させられてしまう。


─────竜としての直感なのかしら


時折、ヘルメティアも妙な既視感を覚えることがあるのだ。

見知らぬはずの相手のことを妙に(した)わしく思うことがあれば、変にそりが合わないと感じることもある。

帝国の兄妹たちに尋ねると、同じようなことがあると言っていたのを、思い起こした。


彼らはそれを竜の直感と名付け、可能な限りその感覚に従うようにしていた。

最初に覚えた感覚というのは、熟慮したときよりも正しいことがあると、経験則として学んでいるからだ。


もし直感だとしたならば、それは考えても仕方のないことだった。

ヘルメティアは一度思考を止めると、緩慢に立ち上がる。

見上げれば空はすっかり夜の帳に覆われ、月が高々とその姿を掲げている。

月光は、世界に深々と降り注いでいた。


ただし、聖地にその光が届くことはない。

代わりに月明りよりも美しい輝きが、満ちているのだ。


それは、神樹から発せられるもだった。

葉の一枚一枚が淡い新緑の色を宿し、繰り返し脈動するよう輝きの強弱を変えていく。

聖地に生まれた竜達であっても、その幻想的な光に心を奪われる時がある程だ。

例えるならば、ルキオラ()が、懸命にその命を燃やすのによく似た美しさだろうか。


この光は日が沈んでから、ある一定の時刻になると聖地全体に降り注ぐ。お陰で、随分長い間ここにいたことが知れた。

そろそろ戻る頃合いだと分かれば、ヘルメティアは最後にもう一度、オラトリオへ言い聞かせるように告げた。


「ただね…謝った方が良いのは確かよ。優しい人が、傷つかないワケじゃないんだから」


いつになく真剣な声で告げたヘルメティアに、オラトリオも同じく引き絞った表情で口を開いた。


「ヘルメティア」


「お姉ちゃんって呼びなさい」


思わず口を挟んでしまうのは、弟という存在への憧れのためだ。

せっかく、末妹という枠組みから姉になったのだから、呼んで欲しいと思うのは致し方ないことだろう。


しかし、そんなヘルメティアの思いを知ってか知らずか、自分のペースを崩さないオラトリオはゆっくりと立ち上がり、白い長衣の裾を払うと歩き出す。


「そろそろ戻るぞ。主の元をこんなに長く離れるなんて、心配だ」


「仕方ないわね…分かったわ」


ヘルメティアは自分の主であるシエスと同程度に傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で、まるで人の話を聞かない弟の言動に大きな溜息をついては、オラトリオの一歩後ろを歩き出す。

自分の意思通りに人が動くことなんて、まずありえないとヘルメティアは知っている。

それでも、少しはこちらを向いて欲しいと思うのは、我儘だろうか。


「…ああ、そうだ」


脱力しそうなになるヘルメティアに、不意に声が掛けられた。

地面に落ちていた視線を声のした方に持ち上げると、そこにはヘルメティアを振り返り、淡く微笑むオラトリオの表情があった。


「主には、ちゃんと謝る。心配させて済まなかったな、ありがとう…ヘルメティア」


唐突に告げられた礼に驚いて、ヘルメティアの菫色の瞳がまぁるく、見開かれる。

じわじわと体の中に染み込んでいく言葉に、ヘルメティアの美貌に蕾を綻ばせるようにして笑顔が広がっていった。


「──…っどういたしまして!」


まだ、諦めなくて良さそうだと思えば、ヘルメティアの気持ちが弾む。

ヘルメティアは目下の第一目標を、オラトリオに()()()()()と呼ばせることと定めると、オラトリオの横に並ぶ。

二人の姉弟は仲良く寄り添って、主の元へと戻っていくのだった。

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