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カラヴィンガ

どこまでも続く草原に落ちる木漏れ日、見上げた先にある枝葉を広げた大樹の威容(いよう)は、すぐにここが聖地であることをエメラルデラに悟らせた。


まず、獣の気配がなく、大樹…いや、神樹以外の木が存在しない。

落葉が蓄積した痕跡もない不自然さは、造り上げられた美しさだ。


森で育ったためであろうか、いささかの落ち着かなさを覚えながら、エメラルデラは歩いていた。

エメラルデラの素足を撫でる青草は心地好く、混乱していた心を癒してくれる。


しかし、向かう先の検討は全くついていなかった。


「……どこに行けば良いのだろうか」

「何かお困りですか、新しい竜の番いのお方」


エメラルデラはびくり、と肩を跳ね上げる。まさか自分の独り言に応える存在がいると思わなかったのだ。

慌てて周囲に視線を巡らせても、誰もいない。


「こちらです。竜の番いのお方」


声のした方に視線を向ければ、足元に手のひら程度の身長しかない小さな少年が一人、立ってこちらを見上げていた。


「君は…?」

「僕達はカラヴィンガと申します」


応える少年は、鳥に似た翼を持っていた。

太陽の光を受けて七色に変わる不思議な羽根を翻し、少年は滑らかに舞い上がる。

そして、丁度エメラルデラの視線の高さで止まった。


新緑の色をした髪は耳朶に掛かる程度の短さで、柔らかそうに風に遊ばれている。

髪と同じ色の大きな瞳は透き通り、白い薄衣が身体を隠していた。

その姿は、物語に語られる妖精や精霊を思わせた。


エメラルデラが掌を恐る恐る差し出すと、意図を()んで素直に腰を掛けてくれる。

オダライアが少年を物珍しそうに覗き込み、嘴で小さな身体をつつこうとすると、エメラルデラは片手を上げてそれを制した。


不満げに嘶くオダライアの頭を撫でてやりながら、改めて掌の上の少年に問い掛ける。


「僕達?」


「僕のような者は複数おります。皆、この聖地を維持し、訪れた方や生まれたばかりの竜のお世話を担うために生まれてきました」


「生まれたばかりの竜の…、…」


エメラルデラは思わず、オダライアの背へと視線を走らせた。

荷物のように乗せたオラトリオの姿が、目に映る。

オラトリオの美しい金の髪と長い手足が、無造作に投げ出されていた。

見た目の美しさが残念な有り様を引き立たせていると言うべきか、絵になるというべきか、悩むところであった。


難しい顔をするエメラルデラの視線を追っていくと、小さな少年はそこに自分が養育すべき人物を発見した。


「オラトリオ様のお世話や教育を僕が行う予定だったのですが…何か粗相でもいたしましたか?」

「いや…、…」


少年の問いを否定しきれず、根が素直なエメラルデラは答えに窮する。

透き通る瞳でこちらを見上げる少年からエメラルデラが視線を外すと、明瞭な答えを出さないまま逃げるように、最も気になることを問い掛けた。


「それより、私の怪我の治療は君がしたのか?」

「いいえ、オラトリオ様がご自分だけでお助けする、と言って聞かなかったので遠慮いたしました。何か不具合でもございますか?」


「そうか、いや、大丈夫だ…」


自分の秘密を知っている人物が一人であること、オラトリオが意識を失っていることへの言及(げんきゅう)を避けられた事実、二重の意味で安堵を覚えると吐息が漏れる。


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