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エメラルデラの秘密

目蓋が震えると共に、濃く(しげ)った睫毛の先が揺れる。ゆっくりと持ち上がっていけば、陽の輝きを受けて鮮やかな紫色に透ける眸が覗いた。


最初映し出されたのは、燃えるような新緑の鮮やかさ。


陽射(ひざ)しを王冠のごとくに戴く大樹は、大地を覆い尽くさんばかりに枝葉を広げ、枯れ落ちることのない葉を常に繁らせていた。

葉を透過し降り落ちる陽射しは、柔らかな色彩を帯びてそこに住まう全ての生物を包み込むようだ。


緑を縁取る光が溢れ落ちて、柔らかな光の柱となって大地に降り注ぐ。

光の先を追うように横を向くと、エメラルデラは自分が水の中に沈んでいる事に気が付いた。


しかし、苦しさは感じない。


透き通るような、不思議と穏やかな気分だった。そんなエメラルデラの上に影が差す。

顔を向ければ、揺れる水面の向こう側に見慣れたヒポグリフの姿が目に入った。

種族は違うが弟とも言える存在に手を伸ばすと、嘴の先が擦り寄せられる。


「…、…オダライア…、…おはよう」


水面の中で、気泡が唇から溢れては声がこもって頭の中で反響した。

しばらくオダライアの嘴を撫でていると、新たな波紋が打ち広がる。

見慣れない長身の人影は、エメラルデラの傍らで立ち止まった。


水晶のように透き通る水面が落ち着いてくると、長く豊かな金糸の髪が肩口から溢れ落ちる姿が見える。

優美な輪郭は整っており、真っ直ぐに通った鼻梁は歪み一つとしてなく鎮座(ちんざ)している。


何よりも印象的な金色の双眸は、硬質な印象を与えながら、微笑めば何処までも暖かく溶けるようであった。

神の御手(みて)で直接、丹念に創り上げたと言われても信じてしまうであろう容姿の持ち主…オラトリオは主の姿を見下ろしていた。


─────見られた…?


意識が明瞭になってくると共に、エメラルデラの中で焦燥感が一気に沸き上がった。

エメラルデラは反射的に、自分の身体を見下ろした。

恐れながら向けた視線の先には、自身の裸体と共に、養父と自身だけが知る秘密が、白日の元に曝されていた。


生殖器を持たず、男でも女でもない。


────変異体(アガマス)であるという、事実────


エメラルデラの鼓動が早鐘を打つ。

上半身を跳ね上げると同時に激しく咳き込んでは、肺に入っていた泉の水が吐き出した。


「げほっ、ぐっ…っ、げっ…ぅぅ」


激しく嘔吐くエメラルデラの背中をつつくオダライアの冷たい嘴が、心配を伝えてきた。


「大丈夫か、主よ…っ」


激しく噎せ込むエメラルデラの姿に、オラトリオが弾かれたように慌てて屈み込み、手を伸ばす。

エメラルデラの肩にオラトリオの手が触れようとした瞬間、エメラルデラの掌が反射的に翻った。


風を切る鋭い音。


エメラルデラの掌が、オラトリオの頬を捉えた瞬間。


「ぐふっぉお゛っっッッッ」


大の男が一人、すっ飛んでいった。

真横に。


泉の清水を跳ね上げて、地面に対して平行に飛んでいくオラトリオの身体が大地に引かれて地面に当たり、勢いよく弾んで、転がっていく。

激しい振動と音が収まっていけば、しん、と耳が痛くなるような静寂が打ち広がっていた。


「…え」


呆けたような声を漏らし、ぴくりとも動かないオラトリオの姿を映すエメラルデラの瞳が、見開かれていく。

エメラルデラは呆然としたまま、ゆっくりと視線を動かして振り抜いた手を見詰めた。

エメラルデラの目に映る自分自身の掌は、叩いた痛みに赤くなっているだけで、昔から変わらない輪郭をしている。

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