王宮で探る 22
「1週間もらえれば、あの薬師の男を見つけて、疑問点を全部、確認してくるから」
ジュリアンさんが自信ありげな口調で言った。
「あれ? でも、確か、町の社交場……でしたっけ? そこで、たまたま近くにいた、知らない人のお話を聞いたんでしょう……?」
「正確には、町の飲み屋にもぐりこんだ時だけどな」
すかさずアルが訂正をいれる。
「アル、何いってんの? 町の社交場に視察に行った時が正解だからね、ライラちゃん。ま、確かに、ライラちゃんの言う通り、あの薬師の男は全く知らない人間だったけど、使える伝手も色々あるから、死んでさえいなければ話は聞けると思う。ライラちゃんに、頼れる兄だと思ってもらえるようがんばってくるから、待っててね」
と、華やかな笑顔を見せたジュリアンさん。
令嬢たちが夢見る、まさに貴公子といった感じの笑顔と、話している内容が合致していない。
私には、もう、ジュリアンさんの本物の姿が密偵で、公爵子息は仮の姿にしか思えなくなってきたんだけど……。
「ジュリアン。絶対に無理はせず、くれぐれも危ないことはしないでね」
コリーヌ様がたしなめるように言った。
「ご心配いただき、ありがとうございます。コリーヌ様。危ないことはせず、でも、結果はもちかえってきますので、ご安心を」
と、答えたジュリアンさん。
そんなジュリアンさんをコリーヌ様が心配そうに見つめている。
コリーヌ様の全く安心できないお気持ちが伝わってくるよう。
だって、ジュリアンさん、危ないことしそうだもんね……。
「ジュリアン、相手がだれであっても油断するな。あの女に、いとも簡単に邪気をつけられたことを忘れるな」
アルが釘をさすと、ジュリアンさんが「うっ……、それを言われたら……」と、うめいた。
「あの、ジュリアンさん。もし、何か調子が悪いとか、邪気がついた気がするとか思ったら、すぐに私に見せてください。いつでも吸い取りますからね」
私の言葉に、ジュリアンさんの顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう、ライラちゃん。本当になんて頼もしいんだろ……。俺が行くところは、いろんな人間の邪気でよどんでそうだから、そう言ってもらえると心強いな。遠慮せずに頼るからね。あー、本当に、ライラちゃんがうちに欲しい。そうだ! 調査する間の一週間だけでも、うちの屋敷に滞在してくれない? 部屋はいっぱいあるから、ライラちゃん好みの部屋を用意するよ。だから、お願いしま……うぐっ……」
いつのまにか背後に立ったアルに、首根っこをつかまれたジュリアンさん。
アルに無理やり椅子から立たされた。
「妄想が激しくなってきたなら、とっとと帰れ、ジュリアン。ライラがおまえの屋敷に足を踏み入れることはない」
が、それくらいでめげるジュリアンさんじゃない。
「緊急の時は、すぐに、ライラちゃんのいる王都のお屋敷にかけつけるから。その時はよろしくね~」
「緊急だろうが邪気まみれになろうが、ライラの屋敷にジュリアンは出入り禁止だ」
「まだ、結婚しているわけじゃないから、アルの許可はいらないよね?」
「ジュリアンにはいる」
なんて、またまた言いあうふたり。
そんな何でも言い合えるふたりが、私にはまぶしく見える。
子どものころ、私は、この変な力を隠そうとして、家族や家で働いてくれている人たち以外には、無意識に距離をおいてしまっていた。
だからなのかな。友達がいないんだよね。
自分で言って悲しいけれど……。
でも、今はなんでも話せるアルがいるし、コリーヌ様もジュリアンさんもいるから、全く寂しくはないんだけどね。
そこで、コリーヌ様が予定があるので時間切れになり、今日の話し合いは終了した。
ジュリアンさんとは一週間後に会うことになった。
もちろん、私は明日からも王宮へ通う。
今日は初日だったから、お茶の時間に軽くすりあわせをするだけの予定だったけれど、まさかのイザベルさんの登場で、予想外の収穫があった。
明日からは王宮での滞在時間を長くする予定にしている。
できるだけ早く、あの邪気の原因をつきとめて、二度とコリーヌ様が苦しまないようにしたいから。
でも、私にできることは邪気のことだけ。
だから、小さな手がかりも見逃さないように、しっかり頑張ろう!
そして、翌日。
今日は朝から王宮へ向かった。
迎えにきてくれたアルと一緒に、はりきって、コリーヌ様のお部屋へうかがう。
すると、思ってもみなかったことが待っていた。




